Saturday, April 19, 2025

シアトルの春 ジョン少年との対話

Conversation with John Boy


Silver Birch Speaks Again
Edited by S. Phillips


人間の目と霊の目

 十一歳のジョン君にとってこれが最初の交霊会だった。幼い時に妹を失い、こんどは父親を不慮の事故で失って母親と二人きりとなったが、母親がシルバーバーチを通じて聞いた二人からのメッセージをいつもジョン君に語っていたので、十一歳の少年ながら、すでに死後の世界の存在を自然に信じるようになっていた。

 まずシルバーバーチの方からお父さんと妹がここに来てますよと言い、二人ともジョン君と同じようにわくわくしていると言うと、

ジョン「ぼくは妹のことをよく知らないんです」

「でも妹の方はジョン君のことをよく知っておりますよ」

ジョン「ぼくがまだちっちゃかった時に見たきりだと思います」
℘69
 「いいえ、そのちっちゃい時から今のように大きくなるまで、ずっと見てきております。ジョン君には見えなくても、妹の方からはジョン君がよく見えるんです。同じように二つの目をしていても、ジョン君とはまったく違う目をしています。壁やドアを突き通してみることができるんですから」

ジョン「そうらしいですね。ぼく知っています」

 「ジョン君のような目をもっていなくても、よく見えるんです。霊の目で見るのです。霊の目で見ると、はるか遠い遠い先まで見えます」



  霊に年齢はない
ジョン「いま妹はいくつになったのですか」

 「それはとても難しい質問ですね。なぜ難しいかを説明しましょう。私たち霊の成長のしかたはジョン君たちとは違うのです。
℘70
誕生日というものが無いのです。歳が一つ増えた、二歳になった、というような言い方はしないのです。そういう成長のしかたをするのではなく、霊的に成長をするのです。言いかえれば、完全(パーフィクト)へ向けて成長するのです」


ジョン「パーフェクトというのは何ですか」

 「パーフェクトというのは魂の中のすべてものが発揮されて、欠点も弱点もない、一点非のうちどころのない状態です。それがパーフェクトです」

ジョン「言いかえればピースですか」

(訳者注───Peace(ピース)には戦争に対する平和という一般的な意味以外に、日本語でうまく表現できない精神的な意味が幾つかある。ここでは悟り、正覚(しょうがく)、といった意味であるが、少年がそのような難解な意味で使うのはおかしいし、さりとて平和の意味でもないので、原語のままにしておいた。たぶん何の悩みも心配もないことを言っているのであろう)

 「そうです。パーフェクトになればピースが得られます。しかし実を言うと〝これがパーフェクトです〟と言えるものは存在しないのです。どこまで到達しても、それは永遠に続く過程の一つの段階にすぎないのです。いつまでも続くのです。終りというものが無いのです」
℘71


  死は悲しいことではない
ジョン「でも、パーフェクトに手が届いたらそれで終りとなるはずです」

 「パーフェクトには手が届かないのです。いつまでも続くのです。これはジョン君には想像できないでしょうね? でも、ほんとにそうなのです。霊的なことには始まりも終りもないのです。ずっと存在してきて、休みなく向上していくのです。

ジョン君の妹も大きくなっていますが、地上のように身体が大きくなったのではなくて、精神と霊が大きくなったのです。成熟したのです。内部にあったものが開発されたのです。発達したのです。でも身体のことではありません。いくつになったかは地上の年齢の数え方でしか言えません。

 そんなことよりもジョン君に知ってほしいことは、もう分かってきたでしょうけれど、妹とお父さんはいつも側にいてくれてるということです。これはまだまだ知らない人が多い大切な秘密です。
℘72
いつもいっしょにいてくれているのです。ジョン君を愛し力になってあげたいと思っているからです。このことを人に話しても信じてくれませんよね? みんな目に見えないものは存在しないと思っているからです。

このことを理解しないために地上では多くの悲しみが生じております。理解すれば〝死〟を悲しまなくなります。死ぬことは悲劇ではないからです。あとに残された家族にとっては悲劇となることがありますが、死んだ本人にとっては少しも悲しいことではありません。新しい世界への誕生なのです。

まったく新しい生活の場へ向上して行くことなのです。ジョン君もそのことをよく理解して下さいね。妹のことは小さい時に見たことがあるからよく知ってるでしょう?」


ジョン「今この目で見てみたいです」

 「目を閉じれば見えることがあると思いますよ」

ジョン「この部屋にいる人が見えるようにですか
℘73    
「まったく同じではありません。さっきも言ったように〝霊の目〟で見るのです。霊の世界のものは肉眼では見えません。同じように霊の世界の音は肉体の耳では聞こえません。今お父さんがとてもうれしいとおっしゃってますよ。もちろんお父さんはジョン君のことを何でも知っています。いつも面倒をみていて、ジョン君が正しい道からそれないように導いてくれているのですから」



  考えることにも色彩がある
ジョン「僕に代わって礼を言って下さいね」

 「今の言葉はちゃんとお父さんに聞こえてますよ。ジョン君にはまだちょっと理解は無理かな? でも、ジョン君がしゃべること、考えてることも、みなお父さんには分るのです。フラッシュとなってお父さんのところに届くのです」

ジョン「どんなフラッシュですか」
℘74
 「ジョン君が何か考えるたびに小さな光が出るのです」

ジョン「どんな光ですか。地上の光と同じですか。ぼくたちの目には見えないのでしょうけど、マッチをすった時に出るフラッシュのようなものですか」

 「いえ、いえ、そんなんじゃなくて、小さな色のついた明かりです。ローソクの明かりに似ています。でも、いろんな色があるのです。考えの中身によってみな色が違うのです。地上の人間の思念はそのように色彩となって私たちのところに届くのです。

私たちには人間が色彩のかたまりとして映ります。いろんな色彩をもった一つのかたまりです。訓練のできた人なら、その色彩の一つ一つの意味を読み取ることができます。ということは、隠しごとはできないということです。その色彩が人間の考えていること、欲しがっているもの、そのほか何もかも教えてくれます」



℘75   スピリチュアリズムはなぜ大切か
ジョン「スピリチュアリズムについて知るとどういう得をするのでしょうか」

 「知識はすべて大切です。何かを知れば、知らないでいる時よりその分だけ得をします。知らないでいることは暗やみの中を歩くことです。ジョン君はどっちの道を歩きたいですか」

ジョン「光の中です」

 「でしたら少しでも多くを知らなくてはいけません。知識は大切な財産です。なぜならば、知識から生きるための知恵が生まれるからです。判断力が生まれるからです。知識が少ないということは持ち物が少ないということです。分かりますね?

ジョン君はいま地球という世界に住んでいます。自分では地球という世界は広いと思っていても、宇宙全体から見ればほんのひとかけらほどの小さな世界です。その地球上に生まれたということは、その地球上の知識をできるだけ多く知りなさいということです。それは次の世界での生活に備えるためです。

 さてスピリチュアリズムのことですが、人生の目的は何かを知ることはとても大切なことなのです。なぜなら、人生の目的を知らないということは何のために生きているかを知らずに生きていることになるからです。
℘76
そうでしょ?ジョン君のお母さんは前よりずっと幸せです。なぜなら、亡くなったお父さんや妹のことについて正しい知識を得たからです。そう思いませんか?」

ジョン「そう思います。前よりも助けられることが多いです」

「ほらジョン君の質問に対する答えがそこにあるでしょ? さて次の質問は?」



  原子爆弾は善か悪か (本書の出版は一九五二年───訳者)
ジョン「地上の人間が発明するものについて霊の世界の人たちはどう思っていますか。たとえば原爆のことなんかについて」

 「これは大きな質問をされましたね。地上の人たちがどう考えているかは知りませんが、私が考えていることを正直に申しましょう。

℘77   
 地上の科学者たちは戦争のために実験と研究にはっぱをかけられ、その結果として原子エネルギーという秘密を発見しました。そしてそれを爆弾に使用しました。

しかし本当はその秘密は人間が精神的、霊的にもっと成長してそれを正しく扱えるようになってから発見すべきだったのです。もうあと百年か二百年のちに発見しておれば地上人類も進歩していて、その危険な秘密の扱い方に手落ちがなかったでしょう。

今の人類はまだまだうっかりの危険性があります。原子エネルギーは益にも害にもなるものを秘めているからです。ですから、今の質問に対する答えは、地上人類が精神的、霊的にどこまで成長するかにかかっています。分かりますか?」


ジョン「最後におっしゃったことがよく分かりません」

 「では説明のしかたを変えましょう。原子エネルギーの発見は時期が早すぎたということです。人類全体としてまだ自分たちが発見したものについて正しく理解する用意ができていなかったために、それが破壊の目的のために使用されてしまったのです。もしも十分な理解ができていたら、有効な目的のために利用されたことでしょう。

℘78
 そこで最初の質問に戻りますが、もしも地上の科学者のすべてが正しい知識、霊的なことについての正しい知識をもっていれば、そうした問題について悩むこともなかったでしょう。出てくる答えは決まっているからです。霊的な理解力ができていれば、その発見のもつ価値を認識し、その応用は人類の福祉のためという答えしか出てこないからです」


ジョン「それが本当にどんなものであるかが分かったら正しい道に使うはずです」

 「その通りです。自分の発明したものの取り扱いに悩むということは、まだ霊的理解力が出来ていないということです」



  幽霊と霊との違い
ジョン「幽霊と霊とはどう違うのですか」

「これはとてもいい質問ですよ。幽霊も霊の一種です。が、霊が幽霊になってくれては困るのです。
℘79
地上の人たちが幽霊と呼んでいるのは、地上生活がとてもみじめだったためにいつまでも地上の雰囲気から抜け出られないでいる霊が姿を見せた場合か、それとも、よほどのことがあって強い憎しみや恨みを抱いたその念がずっと残っていて、それが何かの拍子にその霊の姿となって見える場合の、いずれかです。

幽霊さわぎの原因は大てい最初に述べた霊、つまり地上世界から抜け出られない霊のしわざである場合が多いようです。死んで地上を去っているのに、地上で送った生活、自分の欲望しか考えなかった生活がその霊を地上に縛りつけるのです」


ジョン「もう質問はありません」

 「以上の私の解答にジョン君は何点をつけてくれますか」


ジョン「ぼく自身その答えが解らなかったんですから・・・」

 「私の答えが正しいか間違っているかがジョン君には分からない───よろしい! 分からなくても少しもかまいません。
℘80
大切なのは次のことです。ジョン君は地上の身近な人たちによる愛情で包まれているだけではなく、私たち霊の世界の者からの大きな愛情によっても包まれているということです。目には見えなくても、ちゃんと存在しています。

触わってみることができなくても、ちゃんと存在しています。何か困ったことがあったら、静かにして私かお父さんか妹か、誰でもいいですから心に念じて下さい。きっとその念が通じて援助にまいります]


 別の日の交霊会で同じ原爆の問題が取り上げられ次のような質問が出された。

───国家が、そして人類全体が原爆の恐怖に対処するにはどうすればよいでしょうか。

 「問題のそもそもの根元は人間生活が霊的生活によって支配されずに、明日への不安と貪欲、妬みと利己主義と権勢欲によって支配されていることにあります。残念ながらお互いに扶け合い協調と平和の中に暮したいという願望は見られず、我が国家を他国より優位に立たせ、他の階層の者を犠牲にしてでも我が階層を豊かにしようとする願望が支配しております。

すべての制度が相も変わらず唯物主義の哲学を土台としております。唯物主義という言葉は今日ではかなり影をひそめてきているかも知れませんが、実質的には同じです。
℘81
誰が何と言おうとこの世はやはりカネと地位と人種が物を言うのだと考えています。そしてそれを土台としてすべての制度をこしらえようとします。永遠の実在が無視されております。人生のすべてを目で見、耳で聞き、手で触れ、舌で味わえる範囲の、つまりたった五つの感覚で得られるほんの僅かな体験でもって判断しようとしています。

 しかし生命は物質を超えたものであり、人間は土くれやチリだけで出来ているのではありません。化学、医学、原子、こうしたもので理解しようとしても無駄です。生命の謎は科学の実験室の中で解かれる性質のものではありません。魂をメスで切りさいたり化学的手段で分析したりすることはできません。

いかなる物的手段によって解明しようとしても、生命を捉(と)らえることはできません。なのに物質界の大半の人間は(生命を物質と思い込んで)霊的実在から完全に切り離された生活を営んでおります。最も大切な事実、全生命の存在を可能ならしめているところの根元を無視してかかります。

 地上の全生命は〝霊〟であるがゆえに存在しているのです。あなたという存在は霊に依存しているのです。実在は物質の中にあるのではありません。その物的身体の中には発見できません。存在のタネは身体器官の中を探しても見つかりません。あなた方は今の時点において立派に霊的存在なのです。
℘82   
死んでこちらへ来てから霊的なものを身につけるのではありません。母胎に宿った瞬間からすでに霊的存在であり、どうもがいてみても、あなたを生かしめている霊的実在から離れることはできません。地上の全生命は霊のおかげで存在しているのです。霊なしには生命は存在しません。なぜなら生命とはすなわち霊であり、霊とはすなわち生命だからです。

 死人が生き返ってもなお信じようとしない人は別として、その真理を人類に説き、聞く耳をもつ者に受け入れられるように何らかの証拠を提供することが私どもの使命の大切な一環なのです。

人間が本来は霊的実在であるという事実の認識が人間生活において支配的要素とならないかぎり、不安のタネは尽きないでしょう。今日は原爆が不安のタネですが、明日はそれよりさらに恐ろしい途方もないものとなるでしょう (水爆、さらにはレーザー兵器のことを言っているのであろう───訳者)。

が、地上の永い歴史を見れば、力による圧政はいずれ挫折することは明らかです。独裁的政治は幾度か生まれ、猛威をふるい、そして消滅していきました。独裁者が永遠に王座に君臨することは有り得ないのです。

霊は絶対であり天与のものである以上、はじめは抑圧されても、いつかはその生特権を主張するようになります。魂の自由性 freedom (※)を永遠に束縛することはできないのです。魂の自在性 liberty (※)を永遠に拘束し続けることもできません。
℘83      
自由性と自在性はともに魂がけっして失ってはならない大切な条件です。人間はパンのみで生きているのではありません。物的存在以上のものなのです。精神と魂とをもつ霊なのです。人間的知性ではその果てを測り知ることのできない巨大な宇宙の中での千変万化の生命現象の根元的要素である霊とまったく同じ不可欠の一部なのです。

(※ freedom と liberty は英語においても共通性の多い単語で、日本語訳でもその違いが曖昧であるが、私はここでは freedom とは外部からの束縛がないという意味での自由性、liberty とは内部での囚れがないと意味での自在性と解釈してそう訳した───訳者)

 以上のような真理が正しく理解されれば、すべての恐怖と不安は消滅するはずです。来る日も来る日も煩悶と恐れを抱き明日はどうなるのだろうと不安に思いながら歩むことがなくなるでしょう。霊的な生得権を主張するようになります。なぜなら霊は自由の陽光の中で生きるべく意図されているからです。内部の霊的属性を存分に発揮すべきです。

永遠なる存在である霊が拘束され閉じ込められ制約され続けることは有り得ないのです。いつかは束縛を突き破り、暗闇の中で生きることを余儀なくさせている障害のすべてを排除していきます。正しい知識が王座に君臨し無知が逃走してしまえば、もはや恐怖心に駆られることもなくなるでしょう。ですからご質問に対する答えは、とにもかくにも霊的知識を広めることです。
℘84   
すべての者が霊的知識を手にすれば、きっとその中から、その知識がもたらす責務を買って出る者が出てくることでしょう。不安のタネの尽きない世界に平和を招来するためには霊的真理、視野の転換、霊的摂理の実践をおいて他に手段はありえません」

      

  真理普及は厳粛な仕事
 「ストレスと難問の尽きない時代にあっては、正しい知識を手にした者は真理の使節としての自覚を持たねばなりません。残念ながら、豊かな知識を手にし悲しみの中で大いなる慰めを得た人が、その本当の意義を取り損ねていることがあります。霊媒能力は神聖なるものです。

いい加減な気持で携わってはならない仕事なのです。ところが不幸にして大半といってよい霊媒が自分の能力を神聖なるものと自覚せず、苦しむ者、弱き者、困窮せる者のために営利を度外視して我が身を犠牲にするというところまで行きません。

 また、真理の啓示を受けた者───永いあいだ取り囲まれていた暗闇を突き破って目も眩まんばかりの真理の光に照らされて目覚めたはずの人間の中にさえ、往々にして我欲が先行し滅私の観念が忘れられていくものです。まだまだ浄化が必要です。まだまだ精進が足りません。
℘85
まだまだ霊的再生が必要です。真理普及の仕事を託された者に私が申し上げたいのは、現在の我が身を振り返ってみて、果たして自分は当初のあの純粋無垢の輝きを失いかけていないか。今一度その時の真摯なビジョンにすべてを捧げる決意を新たにする必要はないか。

時の流れとともに煤けてきた豊かな人生観の煤払いをする必要はないか。そう反省してみることです。霊力の地上への一層の顕現の道具として、己の全生活を捧げたいという熱誠にもう一度燃えて頂きたいのです」

              

         
 五章 老スピリチュアリストとの対話

 英国のみならず広く海外でも活躍している古くからのスピリチュアリスト(※)が招待され、シルバーバーチは「霊的知識に早くから馴染まれ、その道を一途に歩まれ、今や多くの啓示を授かる段階まで到達された人」 として丁重にお迎えした。

(※ 名前は紹介されていない。推測する手掛かりも見当たらない。霊言集にはこのように名前を明かしてもよさそうなのに、と思えるケースがよくあるが、多分、公表は控えてほしいとの本人の要望があるのであろう。これもシルバーバーチの影響かもしれない───訳者)

シルバーバーチ 「思えば長い道のりでした。人生の節目が画期的な出来ごとによって織りなされております。しかし、それもすべて、一つの大きな計画のもとに愛によって導かれていることをあなたはご存知です。

暗い影のように思えた出来ごとも、今から思えば計画の推進に不可欠の要素であったことが分かります。あなたがご自分の責務を果たすことが出来たのは、あなた自身の霊の感じる衝動に暗黙のうちに従っておられたからです。

 これより先、その肉体を大地へお返しになられるまでにあなたに課せられた仕事は、とても意義深いものです。これまで一つ一つ階段を追って多くの啓示に接してこられましたが、これから先さらに多くの啓示をお受けになられます。

これまではその幾つかをおぼろ気に垣間みてこられたのであり、光明のすべて、啓示のすべてが授けられたわけではありません。それを手にされるには、ゆっくりとした発達と霊的進化が必要です。私の言わんとするところがお分かりでしょうか」


 「よく分ります」

シルバーバーチ 「これは一体どういう目的があってのことなのか───あなたはよくそう自問してこられましたね?」

 「目的があることは感じ取れるのです。目的があること自体を疑ったことはありません。ただ、自分の歩んでいる道のほんの先だけでいいから、それを照らし出してくれる光が欲しいのです」


シルバーバーチ 「あなたは〝大人の霊〟です。地上へ来られたのはこの度が最初ではありません。それは分かっておられますか」

 「そのことについてはある種の自覚を持っております。ただ、今ここで触れるつもりはありませんが、それとは別の考えがあって、いつもそれとの葛藤が生じます」


シルバーバーチ 「私にはその葛藤がよく理解できます。別に難しい問題ではありません。その肉体を通して働いている意識と、あなたの本来の自我である、より大きな側面の意識との間の葛藤です。有象(うぞう)無象のこの世的雑念から離れて霊の力に満たされると、魂が本来の意識を取り戻して、日常の生活において五感の水際に打ち寄せてしきりに存在を認めてほしがっていた、より大きな自我との接触が得られます。

 さきほどおっしゃった目的のことですが、実は霊の世界から地上へ引き返し、地上人類のために献身している霊の大軍を鼓舞し動かしている壮大な目的があるのです。無知の海に知識を投入すること、それが目的です。暗闇に迷う魂のために灯火(ともしび)を掲げ、道を見失える人々、悩める人々、安らぎを求める人々に安息の港、聖なる逃避所の存在を教えてあげることです。

私たちを一つに団結させている大いなる目的です。宗教、民族、国家、その他ありとあらゆる相違を超越した大目的なのです。その目的の中にあってあなたもあなたなりの役目を担っておられます。そしてこれまで多くの魂の力になってこられました」

 「ご説明いただいて得心がいきました。お礼申し上げます」

シルバーバーチ 「私たちがいつも直面させられる問題が二つあります。一つは惰眠をむさぼっている魂に目を覚まさせ、地上で為すべき仕事は地上で済ませるように指導すること。

もう一つは、目覚めてくれたのはよいとして、まずは自分自身の修養を始めなければならないのに、それを忘れて心霊的な活動に夢中になる人間を抑えることです。神は決してお急ぎになりません。宇宙は決して消滅してしまうことはありません。

法則も決して変わることはありません。じっくりと構え、これまでに啓示されたことは、これからも啓示されていくことがあることの証明として受け止め、自分を導いてくれている愛の力は自分が精一杯の努力を怠りさえしなければ、決して自分を見捨てることは無いとの信念に燃えなくてはいけません」


 実はこの老スピリチュアリストは今回の交霊会に備えて三つの質問を用意していた。その問答を紹介しておく。

 「私の信じるところによれば人間は宇宙の創造主である全能の神の最高傑作であり、形態ならびに器官の組織において大宇宙(マクロコズム)のミクロ的表現であり、各個が完全な組織を具え、特殊な変異は生まれません。しかし一体その各個の明確な個性、顔つきの違い、表情の違い、性向の違い、その他、知性、身振り、声、態度、才能の差異も含めた一人一人の一見して区別できる個性を決定づける要因は何なのでしょうか」


シルバーバーチ 「これは大変な問題ですね。まず物質と霊、物質と精神とを混同なさらないでください。人間は宇宙の自然法則に従って生きている三位一体の存在です。

肉体は物的法則に従い、精神は精神的法則に従い、霊は霊的法則に従っており、この三者が互いに協調し合っております。かくして法則の内側に法則があることになり、時には、見た目に矛盾しているかに思えても、その謎を解くカギさえ手にすれば本質的には何の矛盾も無いことが分ります。

法則のウラ側に法則があると同時に、一個の人間のさまざまな側面が交錯し融合し合って、常に精神的・霊的・物的の三種のエネルギーの相互作用が営まれております。

そこには三者の明確な区別はなくなっております。肉体は遺伝的な生理的法則に従っておりますし、精神は霊の表現ですが、肉体の脳と五官によって規制されております。つまり霊の物質界での表現は、それを表現する物質によって制約を受けるということです。

かくしてそこに無数の変化と組み合わせが生じます。霊は肉体に影響を及ぼし、肉体も又霊に影響を及ぼすからです。これでお分かりいただけるでしょうか」

 「だいぶ分かってきました。これからの勉強に大いに役立つことと思います。では次の質問に移らせていただきます。人間はその始源、全生命の根元から生まれてくるのですが、その根元からどういう段階を経てこの最低次元の物質界へ下降し、物的身体から分離した後(死後)今度はどういう段階を経て向上し、最後に〝無限なる存在〟と再融合するのか、その辺のところをお教えいただけませんか」


シルバーバーチ 「これもまた大きな問題ですね。でも、これは説明が困難です。霊的生命の究極の問題を物的問題の理解のための言語で説明することはとても出来ません。霊的生命の無辺性を完全に解き明かせる言語は存在しません。ただ単的に、人間は霊である、但し大霊は人間ではない、という表現しかできません。

 大霊とは全存在の究極の始源です。万物の大原因であり、大建築家であり、王の中の王です。霊とは生命であり、生命とは霊です。霊として人間は始めも終りも無く存在しています。それが個体としての存在を得るには、地上にかぎって言えば、母胎に宿ってた時です。物的身体は霊に個体としての存在を与えるための道具であり、地上生活の目的はその個性を発現させることにあります。

 霊の世界への誕生である死は、その個性を持つ霊が巡礼の旅の第二段階を迎えるための門出です。つまり霊の内部に宿る全資質を発達、促進、開発させ、完成させ、全存在の始源により一層近づくということです。

人間は霊である以上、潜在的には神と同じく完全です。しかし私は人間は神の生命の中に吸収されてしまうという意味での再融合の時期が到来するとは考えません。神が無限である如く(生命の旅も)発達と完全へ向けての無限の過程であると主張する者です」


 「よく分かります。お礼申し上げます。次に三つ目の質問ですが───今おっしゃられたことがある程度まで説明して下さっておりますが───人間は個霊として機械的に無限に再生を繰り返す宿命にあると輪廻転生論者がいますが、これは事実でしょうか。

もしそうでないとすれば、最低界である地上へ降りてくるまでに体験した地上以外での複数の前生で蓄積した個性や特質が、今度は死後、向上進化していく過程を促進もし渋滞もさせるということになるのでしょうか。私の言わんとしていることがお分かりいただけますでしょうか」

シルバーバーチ 「こうした存在の深奥に触れた問題を僅かな言葉でお答えするのは容易なことではありませんが、まず、正直に申して、輪廻転生論者がどういうことを主張しているのかは私は知りません。が私個人として言わせて頂けば───絶対性を主張する資格は無いからこういう言い方をするのですが───再生というものが事実であることは私も認めます。それに反論する人たちと議論するつもりはありません。

理屈ではなく、私は現実に再生してきた人物を大勢知っているのです。どうしてもそうしなければならない目的があって生まれ変わるのです。預けた質を取り戻しに行くのです。

 ただし、再生するのは同じ個体の別の側面です。同じ人物とは申しておりません。一個の人間は氷山のようなものだと思って下さい。海面上に顔を出しているのは全体のほんの一部です。大部分は海中にあります。地上で意識的生活を送っているのはその海面上の部分だけです。死後再び生まれて来た時は別の部分が海面上に顔を出します。

潜在的自我の別の側面です。二人の人物となりますが、実際は一つの個体の二つの側面ということです。霊界で向上進化を続けると、潜在的自我が常時発揮されるようになっていきます。再生問題を物質の目で理解しようとしたり判断しようとなさってはいけません。霊的知識の理解から生まれる叡知の目で洞察してください。そうすれば得心がいきます」
             

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