八章 祝福されたる者よ、来たれ!
1 光り輝く液晶の大門
一九一三年 十二月 二九日 月曜日
例の高地での体験についてはこれ以上は述べない。地上近くで生活する人間や景色について地上の言語で述べるのは容易であるが、上層界へ行くほど何かと困難が生じてくる。私の界は天界においても比較的高い位置にある。そして今述べたことはこの界のさらに高地での話題である。
それ故、前に述べたように、この界の景観も栄華も極めて簡略に、従って不十分な形でしか述べることが出来ない。そこでこれから差し当り今の貴殿にとって重要であり参考となる話題を取り上げようと思う。
これは私が十界の領主の特命を受けて第五界へ旅立つことになった時の話である。その説明をしよう。
私はその界の首都を訪ね、領主と面会し、そこで私の訪問の要件を聞かされることになっていた。領主にはすでに私の界の領主からの連絡が届いていたのである。また、私一人で行くのではなく、他に三人のお伴を付けて下さった。
五界へ到着してその首都を見つけるのは至って簡単であった。曽てその界の住民であった頃によく見聞きしていたからである。それにしても、その後の久しい時の経過と、その間に数々の体験を経た今の私の目に、その首都は何と変わって映じたことであろう。
考えてもみよ。五界を後にして六界へ進み、さらに向上を続けてついにこの十界に至って以来、こうして再び五界へ戻るのはその時が初めてだったのである。
その途中の界層の一つ一つに活気あふれる生活があり、そこでの数々の体験が私を変え発達を促してきた。そして今、久方ぶりにこの界へ戻ってきたのである。
この界での生活は他の界ほど長くはなかったとはいえ、今の私の目には一見全てが物珍らしく映える。が、同時に何もかもが馴染みのあるものばかりである。
物珍らしく映るのは、私が第四界よりこの界へ向上して来た頭初、あまりの栄華に圧倒され目を眩まされた程であったが、今では逆にその薄暗さ、光輝の不足に適応するのに苦労するほどだからである。
四人は途中の界を一つ通過する毎に身体を適応させて下りてきた。六界までそれを素早く行ったが、五界の境界内に入った時からは、そこの高地から低地へとゆっくりとした歩調で進みつつ、その環境に徐々に慣らしていった。
と申すのも、多分この界での滞在はかなりの長期に及ぶものとみて、それなりの耐久性を身に付けて仕事に当たるべきであると判断したからである。
山岳地帯から平地へと下って行くのも、体験としては興味あるものであった。行くほどに暗さが増し、吾々は絶えず目と身体とを調整し続けねばならなかった。その時の感じは妙なものではあったが不愉快なものではなかった。そして少なくとも私にとっては全く初めての体験であった。
お蔭で私は、明るい世界から一界又は一界と明るさが薄れてゆく世界へ降りて行く時の、霊的身体の順応性の素晴らしさを細かく体験することとなった。
貴殿にもしその体験が少しでも理解できるならば、ぜひ想像の翼をさらに広げて、こうして貴殿と語り合うために、そうした光明薄き途中の界層を通過して地上へ降りてくることがいかに大変なことであるかを理解して欲しいものである。
それに理解が行けば、人間との接触を得るために吾々がさんざん苦労し、その挙句にすべてが無駄に終わることが少なくないと聞かされても、あながち不思議がることはあるまい。
貴殿がもしベールのこちら側より観察することが出来れば、そのことを格別不思議とは思わないであろうが・・・・・・吾らにとってはその逆、つまり人間が不思議に思うことこそ不思議なのである。
では都市について述べよう。
位置は領主の支配する地域の中心部に近い平野にあった。大ていの都市に見られる城壁は見当たらない。が、それに代って一連の望楼が立ち並んでいる。さらに平野と都市の内部にもうまく配置を考えて点在している。
領主の宮殿は都市の縁近くに正方形に建てられており、その城門は特に雄大であった。
さて、これより述べることは吾々上層界の四人の目に映った様子ではなく、この界すなわち第五界の住民の目に映じる様子と思っていただきたい。
その雄大な門は液体の石で出来ている。文字どおりに受け取っていただきたい。石そのものが固くなくて流動体なのである。色彩も刻一刻と変化している。
宮殿内での行事によっても変化し、前方に広がる平野での出来ごとによっても変化し、さらにその平野の望楼との関連によっても変化する。
その堂々たる門構えの見事な美しさ。背景の正殿と見事に調和し、色彩の変化と共に美しさも千変万化する。その中で一個所だけが変わらぬ色彩に輝いている。
それが要石で、中央やや上部に位置し、愛を象徴する赤色に輝いていた。その門を通って中へ入るとすぐに数々の広い部屋があり、各部屋に記録係がいて、その門へ寄せられるメッセージや作用を読み取り、それを判別して然るべき方面へ届ける仕事をしている。
吾々の到着についてもすでに連絡が入っており、二人の若者が吾々を領主のもとへ案内すべく待機していた。
広い道路を通って奥へ進むと、行き交う人々がみな楽しげな表情をしている。このあたりでは常にそうなのである。それを事さらに書くのは、貴殿が時おり、否、しばしば心の中では楽しく思ってもそれを顔に出さないことがあるからである。吾らにとっては、晴れの日は天気がよいと言うのと同じほど当たり前のことなのであるが・・・
それから宮殿の敷地内の本館へ来た。そこが領主の居所である。
踏み段を上がり玄関(ポーチ)を通ってドアを開けると、そこが中央広場(ホール)になっている。そこも正方形をしており、大門と同じ液状石の高い柱で出来ている。それらがまた大門と同じように刻一刻と色調を変え、一時として同じ色を留めていない。
全部で二二本あり、その一本一本が異なった色彩をしている。二本が同じ色を見せることは滅多にない。それがホール全体に快い雰囲気を与えている。それらが天井の大きな水晶のドームの美しさと融合するように設計されており、それが又一段と美しい景観を呈するのであった。
これは貴殿の想像に俟つよりほかはない。私の表現力の限界を超えているからである。
吾々はそのホールで待つように言われ、壁近くに置かれている長椅子に腰を下ろして色彩の変化の妙味を楽しんでいた。見ているうちにその影響が吾々にも及び、この上ない安らぎと気安さを覚え、この古く且つ新しい環境にいてすっかり寛いだ気分になった。
やがてそのホールに至る廊下の一つに光が閃くのを見た。領主が来られたのである。
吾々の前まで来られるとお辞儀をされ、私の手を取って丁重な挨拶をされた。彼は本来は第七界に所属するお方であり、この都市の支配のためにこの界の環境条件に合わせておられるのであった。
至ってお優しい方である。吾々の旅の労をねぎらったあと、謁見の間へ案内して下さり、ご自分の椅子に私を座らせ、三人の供の者がその周りに、さらにご自分はその近くに席を取られた。
すぐに合図があって、女性ばかりの一団が白と青の可憐な衣装で部屋へ入ってきて丁寧な挨拶をし、吾々の前に侍(はべ)った。
それから領主が私と三人の供に今回の招待の趣意を説明された。女性たちは吾々上層界の者の訪問ということで、ふだん身につけている宝石を外していた。が、その質素な飾りつけの中に実に可憐な雰囲気を漂わせ、その物腰は数界の隔たりのある吾々を前にした態度に相応しい、しとやかさに溢れていた。
私はそれに感動を覚え、領主に話を進める前に許しを乞い、彼女たちのところへ下りて行って、一人一人の頭に手を置き祝福の言葉を述べた。その言葉に、そうでなくてもおずおずしていた彼女たちは一瞬とまどいを見せたが、やがて吾々見上げてにっこりと笑微(ほほえ)み、寛ぎの表情を見せた。
さて、そのあとの会見の様子は次の機会としよう。この度はこの界層の環境と慣習を理解してもらう上でぜひ告げておかねばならないことで手一杯であった。この度はこれにて終わりとする。私はその女性たちに優しい言葉を掛け手を触れて祝福した。そして彼女たちも喜びにあふれた笑顔で私を祝福してくれた。
吾々はこうして互いに祝福し合った。こちらではそれが習慣なのである。人間もかくあるべきである。これは何よりも望ましいことである。
そこで私も祝福をもって貴殿のもとを去ることとする。礼の言葉は無用である。何となれば祝福は吾々を通して父なる神より与えられるものであり、吾々を通過する時にその恩恵のいくばくかを吾々も頂戴するからである。そのこともよく銘記するがよい。他人を祝福することは、その意味で、自分自身を祝福することになることが判るであろう。 ♰
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