The Life Beyond the Veil Vol. II The Highlands of Heaven by G. V. Owen
六章 常夏の楽園
6 大天使の励まし
一九一三年十二月十八日 木曜日
吾々が通過した土地は丘陵地で、山と呼ぶほどのものは見当らなかった。いずこを見ても円い頂上をした丘が連なり、そこここに住居が見える。が、進み行くうちにハローレン様の様子が徐々に変化し始めた。表情が明るさを増し、衣装が光輝を発しはじめた。
左手にある森林地帯を通過した頃にはもう、その本来の美しさを取り戻しておられた。その様子を叙述してみよう。
まず頂上に光の表象が現れている。赤と茶の宝石を散りばめた王冠のようなもので、キラキラと光輝を発し、その光輝の中に更にエメラルドの光輝が漂っている。
チュニックは膝まである。腕も出ている。腰のあたりに黄金の帯を締め、それに真珠のような素材の宝石が付いている。色は緑と青である。帽子も同じく緑と青の二色から成り、露出している腕には黄金と銀の腕輪がはめられている。
そうしたお姿でワゴンに立っておられる。そのワゴンは木と金属で出来た美しい二輪馬車でそれが白と栗毛の二頭の馬に引かれている。
私が受けた感じでは全体に茶の色彩が強い。際立つほどではないが、ワゴンの装飾も、見えることは見えるが派手に目立たぬようにと、茶色で抑えられている感じである。
霊界では象徴性(しんぼりずむ)を重んじ、なにかにつけて活用される。そこで、そうした色彩の構成の様子から判断するに、ハローレン様は元来は茶色を主体とする上層界に属しておられ、この界での使命のためにその本来の茶を抑え、この界でより多く見られる他の色彩を目立たたせておられると観た。
使命成就のためにこの界に長期に滞在をするには、そうせざるを得ないのである。
が、その質素にしてしかも全体として実に美しいお姿を拝して、私はその底知れぬ霊力を感じ取った。
その眼光には指揮命令を下す地位に相応しい威厳を具えた聖純さがあり、左右に分けこめかみの辺りでカールした茶色の頭髪の間からのぞく眉には、求愛する乙女の如き謙虚さと優しさが漂っている。
低い者には冒し難い威厳をもって威圧感を与え、それでいて心疚(やま)しからぬ者には親しさを覚えさせる。喜んでお慕い申し上げ、その保護とお導きに満腔の信頼の置ける方である。まさしく王者であり、王者としての力と、その力を愛の中に正しく行使する叡智を具えた方だからである。
さて、吾々は尚も歩を進めた。大して語り合うこともなく、ただ景色の美しさと辺りに漂う安らぎと安息の雰囲気を満喫するばかりであった。
そしてついに新参の一団がそろそろ環境に慣れるために休息しなければならないところまで来た。休息したのちはさらに内陸へと進み、その性格に応じてあの仕事この仕事と、神の王国の仕事に勤しむべく、その地方のコロニーのいずれかに赴くことになる。
そこでハローレン様から〝止まれ!〟のお声があった。そしてその先に見える丘の向こうに位置する未だ見ぬ都へ案内するに際し、ひとこと述べておきたいことがあるので暫し静かにするようにと述べられた。
吾々は静寂を保った。すると前方の丘の向こうの或る地点から巨大な閃光が発せられ、天空を走って吾々まで届いた。吾々は光の洪水の中に浸った。が、一人として怖がる者はいない。何となればその光には喜びが溢れていたからである。
そしてその光輝に包まれたワゴンとそこに立っておられるハローレン様は、見るも燦爛(さんらん)たる光景であった。
ハローレン様はじっと立ったままであった。が、辺りを包む光が次第にハローレン様を焦点として凝縮していった。そしてやがてお姿がそれまでとは様相を変え、言うなれば透明となり、全身が栄光で燃え立つようであった。
その様子を少しでもよい、どうすれば貴殿に伝えることが出来るであろうか。
純白の石膏でできた像に生命が宿り、燦爛たる輝きを放ちながら喜悦に浸り切っているお姿を想像してもらいたい。身に付けられた宝石と装飾の一つ一つが光輝を漲らせ、馬車までが炎で燃えあがっていた。
その辺り一面が生命とエネルギーの栄光と尊厳に溢れていた。二頭の馬はその光輝に浸り切ることなく、それを反射しているようであった。ハローレン様の頭部の冠帯はそれまでの幾層倍も光度を増していた。
私の目にはハローレン様が今にも天に舞い上がるのではないかと思えるほど透明になり、気高さを増されたが、相変わらずじっと立ったまま、その光の来る丘の向こうに吾々には見えない何ものかを見届けておられるような表情で、真っ直ぐにその光の方へ目を向けられ、その光の中にメッセージを読み取っておられた。
しかし、次にお見せになった所作に吾々は大いに驚ろかされた。別に目を見張るような不思議や奇跡を演じられたわけではない。逆である。静かにワゴンの上で跪かれ、両手で顔をおおい、じっと黙したままの姿勢を保たれたのである。
吾々にはハローレン様がその光を恐れられる方ではなく、むしろそれを、否、それ以上のものを思うがままに操られる方であることを知っている。
そこで吾々は悟った。ハローレン様はご自分より霊格と聖純さにおいて勝れる方に頭を垂れておられるのである。そう悟ると、吾々もそれに倣って跪き、頭を垂れた。が、そこに偉大なる力の存在は直感しても、いかなるお方であるかは吾々には判らなかった。
そうしているうちに、やがて美しい旋律と合唱が聞こえてきた。が、その言葉も吾々には理解できない種類のものであった。なおも跪きつつ顔だけ上げて見ると、ハローレン様はワゴンから降りられ吾々一団の前に立っておられた。
そこへ白衣に身を包まれた男性の天使が近づいて来られた。額の辺りに光の飾り輪が見える。それが髪を後頭部で押さえている。
宝石はどこにも見当らないが、肩の辺りから伸びる二本の帯が胸の中央で交叉し、そこを紐で締めている。帯も紐も銀と赤の混じった色彩に輝いている。
お顔は愛と優しさに満ちた威厳をたたえ、いかにも落着いた表情をされている。ゆっくりと、あたかもどこかの宇宙の幸せと不幸の全てを一身に背負っておられるかのような、思いに耽った足取りで歩かれる。そこに悲しみは感じ取れない。
それに類似したものではあるが、私にはどう表現してよいか判らない。お姿に漂う、全てを包み込むような静寂に、それほど底知れぬ深さがあったのである。
その方が近づかれた時もハローレン様はまだ跪かれたままであった。その方が何事か吾々に理解できない言葉で話しかけられた。その声は非常に低く、吾々には聞こえたというよりは感じ取ったというのが実感であった。
声を掛けられたハローレン様は、見上げてそのお方のお顔に目をやった。そしてにっこりとされた。その笑顔はお姿を包む雰囲気と同じく、うっとりとさせるものがあった。
やがてその天使は屈み込み、両手でハローレン様を抱き寄せ、側に立たせて左手でハローレン様の右手を握られた。それから右手を高々とお上げになり、吾々の方へ目を向けられ、祝福を与え、これから先に横たわる使命に鋭意邁進するようにとの激励の言葉を述べられた。
力強く述べられたのではなかった。それは旅立つ吾が子を励ます母親の言葉にも似た優しいもので、それ以上のものではなかった。
静かに、そしてあっさりと述べられたのである。が、その響きは吾々に自信と喜びを与えるに十分なものがあり、全ての恐怖心が取り除かれた。実は初めのうちは、ハローレン様さえ跪くほどの方であることにいささか畏怖の念を抱いていたのである。
そう述べられたままの姿で立っておられると、急に辺りの光が凝縮しはじめ、その方を包み込んだ。そしてハローレン様の手を握り締めたままそのお姿が次第に見えなくなり、やがて視界から消えて行った。光もなくなっていた。あたかもその方が吸収して持ち去ったかのように思えた。
そこでハローレン様はもう一度跪かれ、暫し頭を垂れておられた。やがて立ち上がると黙って手で〝進め!〟の合図をされた。そして黙ってワゴンにお乗りになり、前進を始めた。吾々も黙ってそのあとに続き、丘をまわり、その新参の一行が住まうことになる土地に辿り着いたのであった。 ♰
一九一三年十二月十八日 木曜日
吾々が通過した土地は丘陵地で、山と呼ぶほどのものは見当らなかった。いずこを見ても円い頂上をした丘が連なり、そこここに住居が見える。が、進み行くうちにハローレン様の様子が徐々に変化し始めた。表情が明るさを増し、衣装が光輝を発しはじめた。
左手にある森林地帯を通過した頃にはもう、その本来の美しさを取り戻しておられた。その様子を叙述してみよう。
まず頂上に光の表象が現れている。赤と茶の宝石を散りばめた王冠のようなもので、キラキラと光輝を発し、その光輝の中に更にエメラルドの光輝が漂っている。
チュニックは膝まである。腕も出ている。腰のあたりに黄金の帯を締め、それに真珠のような素材の宝石が付いている。色は緑と青である。帽子も同じく緑と青の二色から成り、露出している腕には黄金と銀の腕輪がはめられている。
そうしたお姿でワゴンに立っておられる。そのワゴンは木と金属で出来た美しい二輪馬車でそれが白と栗毛の二頭の馬に引かれている。
私が受けた感じでは全体に茶の色彩が強い。際立つほどではないが、ワゴンの装飾も、見えることは見えるが派手に目立たぬようにと、茶色で抑えられている感じである。
霊界では象徴性(しんぼりずむ)を重んじ、なにかにつけて活用される。そこで、そうした色彩の構成の様子から判断するに、ハローレン様は元来は茶色を主体とする上層界に属しておられ、この界での使命のためにその本来の茶を抑え、この界でより多く見られる他の色彩を目立たたせておられると観た。
使命成就のためにこの界に長期に滞在をするには、そうせざるを得ないのである。
が、その質素にしてしかも全体として実に美しいお姿を拝して、私はその底知れぬ霊力を感じ取った。
その眼光には指揮命令を下す地位に相応しい威厳を具えた聖純さがあり、左右に分けこめかみの辺りでカールした茶色の頭髪の間からのぞく眉には、求愛する乙女の如き謙虚さと優しさが漂っている。
低い者には冒し難い威厳をもって威圧感を与え、それでいて心疚(やま)しからぬ者には親しさを覚えさせる。喜んでお慕い申し上げ、その保護とお導きに満腔の信頼の置ける方である。まさしく王者であり、王者としての力と、その力を愛の中に正しく行使する叡智を具えた方だからである。
さて、吾々は尚も歩を進めた。大して語り合うこともなく、ただ景色の美しさと辺りに漂う安らぎと安息の雰囲気を満喫するばかりであった。
そしてついに新参の一団がそろそろ環境に慣れるために休息しなければならないところまで来た。休息したのちはさらに内陸へと進み、その性格に応じてあの仕事この仕事と、神の王国の仕事に勤しむべく、その地方のコロニーのいずれかに赴くことになる。
そこでハローレン様から〝止まれ!〟のお声があった。そしてその先に見える丘の向こうに位置する未だ見ぬ都へ案内するに際し、ひとこと述べておきたいことがあるので暫し静かにするようにと述べられた。
吾々は静寂を保った。すると前方の丘の向こうの或る地点から巨大な閃光が発せられ、天空を走って吾々まで届いた。吾々は光の洪水の中に浸った。が、一人として怖がる者はいない。何となればその光には喜びが溢れていたからである。
そしてその光輝に包まれたワゴンとそこに立っておられるハローレン様は、見るも燦爛(さんらん)たる光景であった。
ハローレン様はじっと立ったままであった。が、辺りを包む光が次第にハローレン様を焦点として凝縮していった。そしてやがてお姿がそれまでとは様相を変え、言うなれば透明となり、全身が栄光で燃え立つようであった。
その様子を少しでもよい、どうすれば貴殿に伝えることが出来るであろうか。
純白の石膏でできた像に生命が宿り、燦爛たる輝きを放ちながら喜悦に浸り切っているお姿を想像してもらいたい。身に付けられた宝石と装飾の一つ一つが光輝を漲らせ、馬車までが炎で燃えあがっていた。
その辺り一面が生命とエネルギーの栄光と尊厳に溢れていた。二頭の馬はその光輝に浸り切ることなく、それを反射しているようであった。ハローレン様の頭部の冠帯はそれまでの幾層倍も光度を増していた。
私の目にはハローレン様が今にも天に舞い上がるのではないかと思えるほど透明になり、気高さを増されたが、相変わらずじっと立ったまま、その光の来る丘の向こうに吾々には見えない何ものかを見届けておられるような表情で、真っ直ぐにその光の方へ目を向けられ、その光の中にメッセージを読み取っておられた。
しかし、次にお見せになった所作に吾々は大いに驚ろかされた。別に目を見張るような不思議や奇跡を演じられたわけではない。逆である。静かにワゴンの上で跪かれ、両手で顔をおおい、じっと黙したままの姿勢を保たれたのである。
吾々にはハローレン様がその光を恐れられる方ではなく、むしろそれを、否、それ以上のものを思うがままに操られる方であることを知っている。
そこで吾々は悟った。ハローレン様はご自分より霊格と聖純さにおいて勝れる方に頭を垂れておられるのである。そう悟ると、吾々もそれに倣って跪き、頭を垂れた。が、そこに偉大なる力の存在は直感しても、いかなるお方であるかは吾々には判らなかった。
そうしているうちに、やがて美しい旋律と合唱が聞こえてきた。が、その言葉も吾々には理解できない種類のものであった。なおも跪きつつ顔だけ上げて見ると、ハローレン様はワゴンから降りられ吾々一団の前に立っておられた。
そこへ白衣に身を包まれた男性の天使が近づいて来られた。額の辺りに光の飾り輪が見える。それが髪を後頭部で押さえている。
宝石はどこにも見当らないが、肩の辺りから伸びる二本の帯が胸の中央で交叉し、そこを紐で締めている。帯も紐も銀と赤の混じった色彩に輝いている。
お顔は愛と優しさに満ちた威厳をたたえ、いかにも落着いた表情をされている。ゆっくりと、あたかもどこかの宇宙の幸せと不幸の全てを一身に背負っておられるかのような、思いに耽った足取りで歩かれる。そこに悲しみは感じ取れない。
それに類似したものではあるが、私にはどう表現してよいか判らない。お姿に漂う、全てを包み込むような静寂に、それほど底知れぬ深さがあったのである。
その方が近づかれた時もハローレン様はまだ跪かれたままであった。その方が何事か吾々に理解できない言葉で話しかけられた。その声は非常に低く、吾々には聞こえたというよりは感じ取ったというのが実感であった。
声を掛けられたハローレン様は、見上げてそのお方のお顔に目をやった。そしてにっこりとされた。その笑顔はお姿を包む雰囲気と同じく、うっとりとさせるものがあった。
やがてその天使は屈み込み、両手でハローレン様を抱き寄せ、側に立たせて左手でハローレン様の右手を握られた。それから右手を高々とお上げになり、吾々の方へ目を向けられ、祝福を与え、これから先に横たわる使命に鋭意邁進するようにとの激励の言葉を述べられた。
力強く述べられたのではなかった。それは旅立つ吾が子を励ます母親の言葉にも似た優しいもので、それ以上のものではなかった。
静かに、そしてあっさりと述べられたのである。が、その響きは吾々に自信と喜びを与えるに十分なものがあり、全ての恐怖心が取り除かれた。実は初めのうちは、ハローレン様さえ跪くほどの方であることにいささか畏怖の念を抱いていたのである。
そう述べられたままの姿で立っておられると、急に辺りの光が凝縮しはじめ、その方を包み込んだ。そしてハローレン様の手を握り締めたままそのお姿が次第に見えなくなり、やがて視界から消えて行った。光もなくなっていた。あたかもその方が吸収して持ち去ったかのように思えた。
そこでハローレン様はもう一度跪かれ、暫し頭を垂れておられた。やがて立ち上がると黙って手で〝進め!〟の合図をされた。そして黙ってワゴンにお乗りになり、前進を始めた。吾々も黙ってそのあとに続き、丘をまわり、その新参の一行が住まうことになる土地に辿り着いたのであった。 ♰
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