この〝常夏の国〟では私たちは死んでこちらへやって来る人と後に残された人の双方の面倒をみるように努力しております。これは本当に切り離せない密接な関係があります。と言うのも、こちらへ来た人は後に残した者のことで悩み、背後霊がちゃんと面倒を見てくれていることを知るまで進歩が阻害されるケースが多いのです。そこで私たちは度々地上圏まで出かけることになるのです。
先週も私たちのもとに夫と三人の幼い子供を残して死亡した女性をお預りしました。そして例によってぜひ地上へ行って四人のその後の様子を見たいとせがむのです。
あまりせがまれるので、やむを得ず私たちは婦人を地上へ案内しました。着いた時は夕方で、これから夕食が始まるところでした。ご主人は仕事から帰って来たばかりで、これからお子さんに食事をさせて寝させようと忙しそうにしておりました。
いよいよ四人が感じの良い台所のテーブルを囲み、お父さんが長女にお祈りをさせています。その子はこう祈りました。〝私たちとお母さんのために食事を用意して下さったことをキリストの御名において神に感謝します〟と。
その様子を見ていた婦人は思わずその子のところへ近づき頭髪に手を当てて呼びかけましたが、何の反応もありません。
当惑するのを見て私たちは婦人を引きとめ、少し待つように申しました。暫く沈黙が続きました。その間、長女と父親の脳裏に婦人のことが去来しています。
すると長女の方が口を開いてこう言いました──「お父さん、母さんは私たちが今こうしているのを知ってるかしら?それからリズおばさんのことも。」
「さあ良く判らないけど、きっと知ってると思うよ。この二、三日、母さんがとても心配してるような、何だか悲しい気持がしてならないからね。リズおばさんの念かも知れないけれどね。」
「だったら私たちをおばさんとこに届けないでちょうだい。〇〇婦人が赤ちゃんの面倒を見てくれるし、私だって学校から帰ったら家事のお手伝いをするわ。そしたら行かなくって済むでしょ。」
「行きたくないのだね?」
「私は行きたくないわ。赤ちゃんとシッシーは行くでしょうけど。私はイヤよ。」
「なるほど。父さんもよく考えておこう。だから心配しないで。皆んなで何とかうまくやって行けそうだね。」
「それに母さんだってあの世から助けてくれるわ。それに天使様も。だって母さんはもう天使様とお話が出来るのでしょ?お願いしたらきっと助けてくれるわ。」
父親はそれ以上何もしゃべりませんでした。が、私たちにはその心の中が見えます。そしてこんなことを考えているのが読み取れました──〝こんな小さな子供がそれほどの信仰を持っているからには自分もせめて同じくらいの信念は持つべきだ〟と。
それから次第に考えが固まり、とにかく今のままでやってみようと決心しました。もともと子供を手離すのは父親も本意ではなく、引き止めるための言い訳ならいくらでもあるじゃないか、と思ったのでした。
こうした様子を見ただけで母親が慰めを得たとはとても言い切れません。が地上を後にしながら私たちはその婦人に、あの子の信仰が父親の信念によって増強されたら私たちが援助して行く上で強力な手掛かりとなりますよ、と言ってあげました。そうでも言っておかないと、今回の私たちが取った手段が間違っていたことになるのです。
帰るとその経過を女性天使に報告しました。すると即座に家族が別れ別れにならぬように処置が取られ、その母親には、これから一心に向上を心掛け、早く家族の背後霊として働けるようになりなさいとのお達しがありました。
それからというもの、その婦人に変化が見られるようになりました。与えられた仕事に一心に励むようになったのです。私たちの霊団に加わって一緒に地上へ赴き、彼女なりの仕事が出来るようになる日もそう遠くはないでしょう。
この話はこれ位にして、もう一つ別のケースを紹介してみましょう。先ごろ私たちのコロニーへ一人の男性がやってきました。この方も最近地上を去ったばかりです。
自分の気に入った土地を求めてさ迷い歩き、私たちの所がどうやら気に入ったらしいのです。ずっと一人ぼっちだったのではありません。少し離れた所から何時も指導霊が見守っていて、何時でも指導する用意をしていたのです。
この男性も私たちが時折見かける複雑な性格の持ち主で、非常に多くの善性と明るい面を持ち合わせていながら、自分でもどうにもならない歪んだ性格のために、それが発達を阻害されているのでした。
その男性がある時私たちのホームのある丘からかなり離れた土地で別のホームの方に呼び止められました。その顔に複雑な表情を見て取ったからです。
実は出会った時点ですぐに、少し離れた位置にいた指導霊から、合図によってその男性の問題点についての情報が伝わり、その方は即座にそれを心得て優しく話しかけました。
「この土地にはあまり馴染みがない方のようにお見受けしますが、何かお困りですか。」
「お言葉は有難いのですが、別に困ってはおりません。」
「あなたが抱えておられる悩みはこの土地で解決できるかも知れませんよ。全部というわけにはいかないでしょうけど。」
「私がどんな悩みを抱えているかご存知ないでしょう。」
「いや、少しは判りますよ。こちらで一人も知り合いに会わないことで変に思っておられるのでしょう。そしてなぜだろうと。」
「確かにその通りです。」
「でも、ちゃんとお会いになってるのですよ。」
「会ったことは一度もありません。一体どこにいるのだろうと思っているのです。実に不思議なのです。あの世へ行けば真っ先に知人が迎えてくれるものと思っておりました。どうも納得がいきません。」
「でも、お会いになってますよ。」
「知った人間には一人も会っておりませんけど。」
「確かにあなたはお会いになっていませんが、相手はちゃんとあなたにお会いしています。あなたが気づかないだけ、いや、気づこうとなさらないだけです。」
「何のことだか、よく判りませんね。」
「こういうことです。実はあなたが地上からこちらへ来てすぐから、あなたの知人が面倒を見ているのです。ところがあなたの心は一面なかなか良いところもあり開かれた面もあるのですが、他方、非常に頑なでむやみに強情なところがあります。あなたの目に知人の姿が映らないのはそこに原因があるのです。」
男はしばらくその方を疑い深い目でじっと見つめておりました。そしてついに、どもりながらもこう言いました。
「じゃ、私のどこがいけないのでしょう。会う人はみな優しく幸せそうに見えるのに、私はどの人とも深いお付き会いが出来ないし落着ける場所もありません。私のどこがいけないのでしょう。」
「まず第一に反省しなくてはいけないのは、あなたの考えることが必ずしも正しくないということです。ちなみに一つ二つあなたの誤った考えを指摘してみましょう。
一つは、あなたはこの世界を善人だけの世界か、さもなくば悪人だけの世界と考えたがりますが、それは間違いです。地上と似たり寄ったりで、善性もあれば邪悪性も秘めているものです。
それからもう一つ。数年前に他界された奥さんは、あなたがこれから事情を正しく理解した暁に落着かれる界よりも、もっと高い界におられます。地上時代は知的にはあなたに敵いませんでしたし、今でも敵わないでしょう。
ところが総合的に評価すると霊格はあなたの方が低いのです。これがあなたが認めなくてはならない第二の点です。心底から認めなくてはダメです。あなたのお顔を拝見していると、まだ認めてないようですね。でも、まずそれを認めないと向上は望めません。
認められるようになったら、その時はたぶん奥さんと連絡が取れるようになるでしょう。今のところまだそれは不可能です。」
男の目が涙で曇ってきました。でも笑顔を作りながら、どこかさびしげに言いました。
「どうやらあなたは予言者でいらっしゃるようですね。」
「まさしくその通り。そこで、あなたが認めなければならない三つ目のことを申し上げましょう。それはこういうことです。あなたのすぐ近くにあなたをずっと見守り救いの手を差し伸べようと待機している方がいるということです。
その方は私と同じく予言者です。先覚者と言った方が良いかも知れません。さっき申し上げたことは全部その方が私に伝達してくれて、それを私が述べたに過ぎません。」
それを聞いて男の顔に深刻な表情が見えてきました。何かを得ようとしきりに思い詰めておりましたが、やがてこう聞きました。
「結局私は虚栄心が強いということでしょうか。」
「その通り。それもいささか厄介なタチの虚栄心です。あなたには優しい面もあり謙虚でもあり、愛念が無いわけではありません。この愛こそ何にも勝る力です。
ところがその心とは裏腹にあなたの精神構造の中に一種の強情さがあり、それは是非とも柔げなくてはなりません。言ってみれば精神的轍(わだち)の中にはまり込んだようなもので、一刻も早くそこから脱け出て、もっと拘泥(こだわり)を捨て、自由に見渡さなくてはいけません。
そうしないといつまでも〝見えているのに見えない〟という矛盾と逆説の状態が続きます。つまり、あるものは良く見えるのにあるものはさっぱり見えないという状態です。
証拠を突きつけられて自説を改めるということは決して人間的弱さの証明でもなく堕落でもなく、それこそ正直さの証明であることを知らなくてはいけません。
もう一つ付け加えておきましょう。今言ったように、その強情さはあなたの精神構造に巣食っているのであって、もしそれが霊的本質つまり魂そのものがそうであったなら、こんなに明るい境涯には居られず、あの丘の向こう側──ずっとずっと向こうにある薄暗い世界に落着くところでした。以上、私なりにあなたの問題点を指摘してさし上げました。後は別の人にお任せしましょう。」
「どなたです?」
「さっきお話した方ですよ。あなたの面倒を見ておられる方。」
「どこにおられるのですか。」
「ちょっとお待ちなさい。すぐに来られますから。」
そこで合図が送られ、次の瞬間にはもうすぐ側に立っていたのですが、その男には目えません。
「さあ、お出でになりましたよ。何でもお尋ねしなさい。」
男は疑念と不安の表情で言いました──「どうか教えて下さい。ここにおられるのであれば、なぜ私に見えないのでしょうか。」
「さっきも言った通りあなたの精神構造に見えなくさせるものが潜んでいるからです。あなたがある面において盲目であるという私の言葉を信じますか。」
「私は物がよく見えています。非常にはっきり見えますし、田園風景も極めて自然で美しいです。その点では私は盲目ではありません。ですが、同じく実質的なもので私に見えないものが他にもあるかも知れないと考えはじめております。多分それもそのうち見えるようになるでしょう。でも…」
「お待ちなさい、その〝でも〟はやめなさい。さあ、ここをよく見なさい。あなたの指導霊の手を私が握って見せますよ。」
そう言って指導霊の右手を取り、「さ、よく見なさい。何か見えますか」と聞きましたが、男にはまだ見えません。ただ何やら透明なものが見えるような気がするだけで、実体があるのか無いのかよく分かりませんでした。
「じゃ、ご自分の手で握って見なさい。さ、私の手から取ってごらんなさい。」
そう言われて男は手を差し出し、指導霊の手を取りました。そしてその瞬間、どっと泣き崩れました。
男にそうした行為が出来たということ、そして指導霊の手を見、さらにそれに触れてみることが出来たということは、男がその段階まで進化した人間であった事を意味します。手を出しなさいと言われた時はすでに、それまでのやりとりの間に男がそれが出来るまで向上していたということで、さっそくその報いが得られたわけです。
指導霊は暫くの間男の手をしっかりと握りしめておりましたが、そのうち男の目に指導霊の姿がだんだん見え始め、且つ、手の感触も強くなって行きました。
それまで相手をされた方はそれを見てその場を去りました。男は間もなく指導霊が見えるだけでなく語り合うことも出来るようになったことでしょう。そして今はきっと着々と霊力を身につけて行きつつあることでしょう。
ルビーがあなた方両親にこんなメッセージを伝えて欲しいとのことです───「お父さん、お母さん、地上の親しい人が良い行いや親切なことをしたり、良いことを考えたりお話したりすることが全部映像になってこちらへ伝わって来るのは本当です。
私達はそれを使って部屋を美しく飾ったりします。リーンちゃんがあのお花で部屋を飾るのといっしょよ」と。
では神の祝福を。お寝すみなさい。
No comments:
Post a Comment