Saturday, February 11, 2023

シアトルの冬 愛と叡智 love and wisdom


 一九一三年十月十日  金曜日
 
私たちの日常生活とあなた方の日常生活とを比較して見られれば、結局はどちらも学校で勉強しているようなものであること、実に大きな学校でたくさんのクラスがあり、大勢の先生がおられること、しかし教育方針は一貫しており、単純なことから複雑なことへと進むようになっていること、そして複雑ということは混乱を意味するのではなく、

宇宙の創造主たる神を知れば知るほどその知る喜びによって一層神への敬虔なる忠誠心を抱くように全てがうまく出来上っていることを悟るようになります。

 そこで今日も従来からのテーマを取り上げて、こちらの世界で私たちが日頃どんなことをして過ごしているのか、神の愛がどのように私たちを包み、謙虚さと愛を身につけるにつれて事物がますます明快に理解されていくかを明らかにしてみましょう。


 こちらの事情で大切なことの一つに叡智と愛のバランスが取れていないといけないことが挙げられます。両者は実は別個のものではなく、一つの大きな原理の二つの側面を表わしているのです。

言わば樹木と葉との関係と同じで、愛が働き叡智が呼吸しておれば健全な果実が実ります。解りやすく説明するために、私たちが自分自身のこと、および私たちが指導することを許された人々の世話をする中でどういう具合にその愛と叡智を摂り入れて行くか、一つの具体例をあげてみましょう。


 つい先頃のことですが、私たちは一つの課題を与えられ、そのことで私たち五人で遠く離れたところにある地域(コロニー)を訪れることになりました。目的は神の愛の存在について疑念を抱き、あるいは当惑している地上の人間に対して取るべき最良の手段を教わることでした。

と言うのも、そうしたケースを扱う上でしばしば私たちの経験不足が障害となっていましたし、又あなたも御存知の通り地上にはそういう人が多いのです。

 そこにあるカレッジの校長先生は地上では才能豊かな政治家だった方ですが、その才能が地上ではあまり発揮されず、こちらへ来て初めて存分に発揮できるようになり、結局地球だけが鍛錬の成果が発揮される場でないことを身を持って理解されたわけです。

 訪問の目的を述べますと、その高い役職にも拘わらず、少しも偉(えらぶ)らず、極めて丁重で親切に応対されました。あなた達なら多分天使と呼びたくなるだろうと思われるほど高貴な方で、もしもそのお姿で地上に降りたら人間はその輝きに圧倒されることでしょう。

容姿もお顔も本当に美しい方で、それを形容する言葉としては、さしずめ〝燦然たる光輝に燃え立つような〟というところでしょう。親身な態度で私たちの話に耳を傾けられ、時折静かな口調で〝それで?〟と言って話を促され、私たちはついその方の霊格の高さも忘れて、恐れも遠慮もなく話しました。するとこうおっしゃいました。

 「生徒の皆さん──ここにいる間は生徒ということにしましよう──お話は興味深く拝聴いたしました。と同時に、そういうお仕事によくある問題でもあります。さて、そうした問題を私が今あっさりと解決してあげれば、皆さんは心も軽くお仕事に戻ることが出来るでしょう。が、イザ仕事に携わってみると又アレコレと問題が生じます。

なぜか。それは、一ばん心に銘記しておくべきことというものは体験してみなければ解らない細々(こまごま)したことばかりだからです。
それがいかに大切であるかは体験してみてはじめて解るということです。では私についてお出でなさい。大事なことをこれからお教えしましょう。」


 私たちは先生の後について敷地内を歩いて行きました。庭では庭師が花や果実の木の剪定などの仕事に専念しておりました。小道を右に左に曲がりながら各種の植え込みの中を通り抜けました。小鳥や可愛い動物がそこここに姿を見せます。やがて小川に出ました。そしてすぐ側にエジプト寺院のミニチュアのような石の東屋があり、私たちはその中に案内されました。

天井は色とりどりの花で出来た棚になっており、その下の一つのベンチに腰掛けると、先生も私たちのベンチと直角に置いてあるベンチに腰を下ろされました。


 床を見ると何やら図面のようなものが刻み込まれております。先生はそれを指さしてこうおっしゃいました。

 「さて、これが今私があなた方を案内して回った建物と敷地の図面です。この印のところが今いる場所です。ご覧の通り最初に皆さんとお会いした門からここまで相当の距離があります。

皆さんはおしゃべりに夢中でどこをどう通ったかは一切気にとめられなかった。そこでこれから今来た道を逆戻りしてみるのも良い勉強になりますし、まんざら面白くないこともないでしょう。無事にお帰りになってお会いしたら、先ほどお聞きしたあなた方の問題についてアドバイスいたしましょう。」



 そうおっしゃって校長先生は立ち去られました。私たちは互いに顔を見合わせ、先生が迷路のような道を連れて回られた目的に気づかなかったそのうかつさを互いに感じて、どっと笑い出しました。それから図面を何度も何度も調べました。直線と三角と四角と円がごちゃごちゃになっている感じで、始めはほとんど判りませんでした。

 が、そのうち徐々に判りはじめました。それはそのコロニーの地図で、東屋はその中心、ほぼ中央に位置しております。が入口が記されておりません。しかもそれに通じる小道が四本あって、どの道を辿ればよいかが判りません。

しかし私はこれは大した問題でないと判断しました。と言うのは四本ともコロニーの外郭へつながっており、その間に何本もの小道が交叉していたからです。その判断に到達するまでのすったもんだは省きましょう。時間が掛かりますから。

 とにかく私の頭に一つの案が浮かび、参考までに提案してみたところ皆んなそれはなかなか良い考えだと言い、これで謎が解けそうだと喜びました。と言って別に驚くほどのことではないのです。どの方向でも良いから、とにかく外へ出て一ばん直線的な道を進んでみるというだけの話です。

言い方がまずいようですね。要するに東屋からどちらの方角でも良いから一ばん真っ直ぐな道を取るということです。そうすると必ず外郭へ出る。その外郭は完全な円形をしているから、それに沿って行けば遅かれ早かれ門まで来ることになるわけです。

 いよいよ出発しました。道中は結構長くて楽しいものでした。そして冒険的要素が無いわけではありませんでした。と言うのも、そのコロニーはそれはそれは広いもので、丘あり谷あり森あり小川ありで、それがまた実に美しいので、よほど目的をしっかり意識していないと、道が二つに岐れたところに来るとつい方向を誤りそうになるのでした。

 しかし、必ずしも最短で直線的な道を選んだわけではないと私は思うのですが、私はついに外郭に辿り着きました。ついでに言うと、その外郭は芝生の生い茂った幅の広い地帯になっていて、全体は見えなくても、その境界の様子からして円形になっていることはすぐに判ります。

そこで左へ折れ、そのまま行くと間違いなく円形をしていて無限軌道のように続いておりました。どんどん歩いて行くうちに、ついに最初に校長先生にお会いした門のところまで来ました。

 先生は、よく頑張りました、と言って迎えて下さり、その足で建物の前のテラスに上がり、それまでの冒険談──私が書いたものより遥かに多くの体験──をお聞かせしました。先生は前と同じように熱心に耳を傾けて下さり「なるほど。結構立派にやり遂げられました。目的を達成し、ここまで帰って来られたのですから。
ではお約束通り、あなた方の学ばれた教訓を私から述べさせていただきましょう」と言って次のような話をされました。

 「まず第一に、行きたいと思う方向を確認すること。次に近道と思える道ではなく一ばん確実と思える道を選ぶこと。その道が一ばん早いとは限りません。
 
限りなく広がると思えたこのコロニーの境界領域までまずやってくる。その境界線から振り返ると、それまで通り抜けて来た土地の広さと限界の見当がつく。要はそれまでの着実さと忍耐です。望むゴールは必ず、達成されるものです。

 「又、その限られた地域とその先に広がる地域との境界領域に立って見渡すと、曲がりくねった道や谷や小森が沢山あって、あまり遠くまで見通せなくても全体としては完全に釣合が取れている──要するに完全な円形になっており、内部は一見すると迷路でごった混ぜの観を呈していても、より大きい、あるいはより広い観点から見ると、全体として完全な統一体で、実質は単純に出来ていることが判るはずです。小道を通っている時は迷うでしょうけど。

 それに、その外郭を曲線に沿って行くと限られた範囲しか目に入らなかったでしょう。それでも、その形からきっと求める場所つまり門に辿り着けると判断し、その理性的判断に基づいた確信のもとに安心して辿って来られた。そして今こうして辿り着き、少なくとも概略においてあなた方の知的推理が正しかったことを証明なさったわけです。
 
さてこの問題は掘り下げればまだまだ深いものがありますが、私はここであなた方をこの土地にいて私を援助してくれている仲間たちにお預けしようと思います。
 
その人たちがこの建物や環境をさらにご案内し、お望みならもっと広い地域まで案内してくれるでしょう。面白いものがたくさんあるのです。

その方たちと私が述べた教訓について語り合われるとよろしい。少し後でもう一度お会いしますので、その時に話したいことや尋ねたいことがあればおっしゃって下さい。」

そうおっしゃって私たちにひとまず別れを告げられると、代わって建物の中から楽しそうな一団が出て来て私たちを中へ招き入れました。まだまだ続けたいけど、あなたにはまだお勤めが残っているから今日はこの辺でやめにしましょう。少しの間とはいえ、こうして交信のために降りて来るのは楽しいことです。
 
あなたをはじめ皆さんに神の祝福を。母とその霊団より。

No comments:

Post a Comment