背後霊の仕事
ある日の交霊会で、霊媒の背後霊の中にはわれわれ人間でも知っているようなことを知らない霊がいるのはなぜか、と言う質問が出された。これに対してシルバーバーチはこう答えた。
「背後霊にもいろんな種類があります。目的がいろいろとあるからですが、その霊がすべて同じレベルにあるわけではありません。交霊会において各々に割り当てられる仕事は成長と発達の度合いによって異なります。
宇宙の機構について詳しい霊がいても、あくまでその時点までのその霊の経験の結果としての知識を述べるのであって、まるで知らないことについては答えられません。知らないことは何一つないような霊は決していません。
たとえば物理実験会で門番のような役をしている霊は高等な思想上の問題はよく知りませんし、高等な思想・哲学を説くことを使命としている霊は物質化現象をどうやって起こすかといったことは、まるで知りません。霊をぜんぶ同一水準に置いて考えることは禁物です」
「どんな霊が背後霊となるのでしょうか」
「血縁関係のある霊もいれば、地上的な縁故関係はまったくなくて、果たさんとする目的において志を同じくする者、言ってみれば霊的親近感によって結ばれる場合もあります。
そこには民族や国家の違いはありません。地上を去り、地上的習性が消えていくと、民族性や国民性も消えていきます。魂には民族も国家もありません。あるのは肉体上の差異だけです」
「背後霊として選ばれる基準は何でしょうか」
「地上世界の為に為すべき仕事があることを自覚して、みずから買って出る霊もいますし、ある霊的な発達段階まで来ている霊が、人類啓発の使命を帯びた霊団から誘いをかけられる場合もあります。
私はその誘いを受けた一人です。自分から買って出たのではありません。が、やってみる気はないかと言われた時、私はすぐに引き受けました。正直言ってその仕事の前途は、克服しなければならない困難によって〝お先まっ暗〟の状態でした。
しかし、その困難は大体において克服され、まだ残されている困難も、取り除かれたものに比べれば、きわめて小さいものばかりです」
「誘われた場合は別として、自分から申し出た場合、その適性をテストする試験官のような人がいて合否を決めるのでしょうか」
「ズバリそうだとは言えませんが、それに似たことは行われます。こちらの世界は実にうまく組織された世界です。人間には想像できないほど高度に組織化されております。
それでいて、その仕事を運用するには、こうした小さな組織が必要なのです。私たちの霊団の中にはあなた方も名前をよくご存知の方が何人かいます。
ところが、どういうわけか、揃って遠慮がちな性格の人ばかりで、私が出なさいとけしかけても、何時も〝あなたからお先に〟と言って後ろへ引っ込むのです。
さて、たとえばあなたが自分の霊団を組織したいと思われても、霊の方があなたの仕事に共鳴して集まってくれなくてはだめですし、また呼び寄せるだけの霊力を発揮できる段階まであなたが進化していなくてはなりません。
こちらの世界ではその人の人間性が全てを決します。絶対的実在は霊なのです。
それには仮面も変装も口実もごまかしもききません。何一つ隠せないのです。全てが知れてしまうのです」
「その人の適性が霊性にはっきり出ているということでしょうか」
「そのとおりです。なぜかと言えば、その人のオーラ、色彩、光輝がその人の本性を示しているからです。教える資格もない者が先生ヅラをしてもすぐにバレます。
その人には教えられないことが明らかなのですから。ですから、あなたが人類のための仕事に志を抱く霊を呼び寄せようとしても、あなたご自身が霊的成長によって霊を引きつける力を具えていなければ、それは叶えられないということです。お判りになりますか」
「私が知りたいのは、そういった十分に成長していない霊が霊団の一員として働かせてもらえないのは、どういう経緯でそうなるのかということです」
「働けないから、というに過ぎません。資格のない者にはやりたくても出来ないのが道理でしょう。その霊には霊力もエネルギーも放射線も人間も引き寄せることは出来ません。
それを手にするに値するだけの鍛錬がまだ足らないということです。霊媒をコントロールするには人間側の協力も必要なのです。
実に入り組んだ過程を経なければなりません。うまく行っている時は簡単そうに見えますが、うまく行かなくなった時に、その一見単純そうな過程のウラ側の複雑な組織がちょっぴり分かります」
質問者はさらに突っ込んで、通信霊が他人の名を騙ることがある事実を上げて、なぜそれが霊団の方で阻止できなかったのか、本物かどうかを見分ける方法はないかと尋ねた。すると───
「実によりて木を知るべし(マタイ7・20)と言います。もし仮にこの家のドアを開けっ放しにして門番も置かなかったらどうなります?誰彼なしに入り込んできて好き勝手な文句を言うことでしょう。
そこで時刻を決めてドアを開け、門番を置いて一人一人チェックすることにしたらどうなります?まったく話は違ってくるでしょう」
「おっしゃる通りです。ということはレギラーメンバーで定期的に開くのが安全ということでしょうか」
「そうです。むろんです。ぜひそうあらねばなりませんし、それに、身元のはっきりした専属の支配霊がいて、その霊の存在を確認しない限り通信は許さないということにすることです。
私どもの世界も至って人間的な世界です。最低から最高までのありとあらゆる程度の人間がいて、その中にはしきりに地上に戻りたがっている者が大勢います。
その全てが指導する資格を持っているわけではなく、教える立場にあるわけでもなく、聖人君子でもありません。
至って人間くさい者がいて、人間界への働きかけの動機にも霊的なところがない場合があります」
「きちんとした組織をもった交霊会では通信霊のチェックが行われるのでしょうか。他人の名を騙ってしゃべることは不可能でしょうか」
「きちんとした交霊会では不可能です。この交霊会は始まってずいぶん長くなりますが、その間ただの一度もそういうことは起きておりません」
「霊界に組織があって、通信霊本人が述べる証拠とは別に、その組織が身元を保証してくれるようなことがあるのだろうかと思っておりましたが・・・」
「保証には二つあります。一つは通信霊が出す証拠に自然に具わっているものです。いつかは必ず正体を見せます。
もう一つは、これはとくに初めてしゃべる霊あるいは、せいぜい二度目の霊に言えることですが、その会を指揮している支配霊による身元の保証です。
私のみる限り、何年も続いている有名な交霊会の支配霊は信頼できます。
もっとも、だからと言って───私の話しはいつもこのことに帰着するのですが───そうした交霊会に出席している人が一瞬たりとも理性的判断をおろそかにしてよいと言っているのではありません。これは神からの贈物です。
支配霊が誰であろうと、通信霊が誰であろうと、もし言っていることが自分の理性に反発を感じさせたら、それはきっぱりと拒絶するのが絶対的義務です。
私たちの仕事の基本は〝協調性〟にあります。あくまでも人間側の自由意志と腹蔵の無い同意のもとに手をつなぎ合って進まないと成功は得られません。
しばしば言ってきたことですが、私の言うことがどうも変だと思われたら、どうぞ受け入れないでください。拒絶してください。
私は絶対に誤りを犯さないとか叡知の全てを所有しているなどとは思っておりませんから、同意が得られない時はいっしょに考え合って、お互いに勉強していきましょう。
そういう方法で行けばきっと成功します。威圧したり強制したりして仕事を進めるやり方は私たちは取りません。神から授かった理性の光で導き、一歩一歩みずからの意志で踏み出すように仕向けます。
私たちが絶対に誤りを犯さないとは申しません。もっとも、故意の偽りを述べることとは全く別問題です。実によりて木を知るべし───これは実に良い判断方法です。
もし利己主義や欲得を煽るような、あるいは世間への義務を疎かにさせたり、汚ない考えや隣人への思いやりに欠ける言葉を吐くようなことがあったら───もしも慈悲の心を忘れさせ自己本位の生き方を勧めるようなことがあったら、それが立派な罪悪性の証拠と言えます。
が、私たちの訓え、私たちの説く思想は、こちらの世界から発せられる全てのものの底流にある唯一の動機、すなわち〝人のために自分を役立てる〟ということを第一に強調するものです。
皆さんも互いに扶け合い、自分が得たものを他人に分け与え、かくして神の恩寵が世界中に広がるように努力していただきたいのです。
実によりて人を知るべし───これが最後に勝利を収める方法です。
なぜなら、それが神の御心であり、その神は愛と叡知によって動かされて、大自然の法則を通じて働いているからです」
実はその日の交霊会の初めに、交霊会で使用されるエネルギーについての質疑応答があった。その中でシルバーバーチは、前回の交霊会はあまりうまく行ったとは言えませんと述べ、その理由をこう説明した。
「私がエネルギーを使い果たし、保存してあるものの一部まで使ってしまったからです。
でも今夜はその心配はありません。私は全身に力が漲り、いただいた分量を全部たくわえております」
「貯蔵庫が満タンということですね」
「はい、満タンです。溢れ出ているほどです。私どもにそのエネルギーに浸らせて下さい。そしてその一部を頂戴させて下さい」
「どこから摂取するのですか」
「あなた方からです」
「私たちだけではないでしょう」
「いえ、皆さん全員からです。皆さんが仕入れ先です。私と貯蔵庫とをつなぐエネルギーを提供してくれるのが皆さん方ということです」
「むろん霊媒からも得ているわけですね」
「もちろん。霊媒の持つ力によって私があなた方と話し、いろいろと無理難題を申し上げているわけです」
「摂取するのは私たちがここに集まってからですか、それともそれぞれ別のところにいる時ですか」
「ここに居られる間に摂取いたします。ここが一ばんやり易いのです。お一人から少しずつ摂取するのですが、少しずつを沢山集めれば分量も多くなります。それを混ぜ合わせ、それに別の要素を加えることによって必要とするものが出来上がります。
簡単です。もう皆さんはお分かりでしょう」
「エクトプラズムと同じものですか」
「同じです。ただし、質をずっと精妙化して使用します」
「でも本質的には同じものでしょう」
「皆さんから摂取するのは同じ物質です。エネルギーという謎めいた用語がよく使用されますが、これは要するに宇宙の生命力の一部であり、あなた方の言うエクトプラズムもその一つの変形にすぎません」
「でもエクトプラズムは後で全部本人に戻されると思っていましたが・・・」
「そうなのですが、必ずそのごく一部分だけが戻されずに残ります」
「貯蔵庫が空になった時は戻さずに取っておくわけですか」
「そうです。それに霊界で調合したもの───その調合にも同質の物質、全く同じものではありませんが、ほぼ同質のものを列席者から抽出しますが───を混ぜ合わせて、一回の交霊会に必要な分量をこしらえて、いざという時のためにその一部を取っておきます。生命力の一部です。大体こんな説明しかできませんが・・・」
「余分を取っておかないと仕事ができないのでしょうか」
「できないことはありませんが、霊媒に大きな負担を掛けることになります。
もしかしたら話す力まで奪われてしまうかも知れません。そうなると何もできないことになります」
「別に私は余分に取っておくのがけしからんと言っているのではありません。なぜかを知りたかっただけです」
「私の方には、お答えする場合に余り多くを語りすぎないようにとの配慮があるのです」
「なぜでしょう。なぜ全てを教えてくれないのですか」
「一つには、お教えしたくても出来ないということ、もう一つは、語ることを許されていないこともあるということです。それを知ることを許されるには、ある一定の霊的成長が指標となります。そこまで進化しないと、その知識をもつことを許されないのです」
「たとえ理解できても、身体に宿っているとその知識を間違ったことに使用する可能性があるということでしょうか」
「そういうことです。もっとも、私どもの世界からのちゃんとした協力が得られれば別です。が実際にはいったん高度な知識を手にすれば、それを間違って使用することはないでしょう。
と言うのは、その知識を得たということは、その正しい使用法を心得る段階まで向上していることを意味するからです。
全ては摂理によって規制されているのです。入れ替わり立ち替わりしゃべりたがる低級霊の場合は別として、名の知れた支配霊が道徳的に首をかしげたくなるようなことを言った例は決してないはずです。
非難したり中傷したり陰口を言ったり、つまり低俗な人間のするようなことを支配霊がしたためしはないはずです。
人類を導く者としての資格があるか否かを見極める仕事をしている霊を得心させるだけの器量が無くてはならないからです。
自分がコントロールできない者がどうして他人を正しい道へ導くことができましょう。でも、最後はあなた方自身が判断なさることです。
私たちに設けられた基準は実に高度なものです。何しろ混迷する人類を導くという使命に携わっているのです。指導者として十分な器量を具えていなければなりません。
そこでこの仕事に携わる者は厳重な監視下に置かれます。また成果を報告し、細かい吟味を受け、仕事を更に進展させるための再調整が為されます。
私がいつもあなた方に、全てを安心して霊の世界の者にお任せしなさい、と申し上げるのはそのためです。
あなた方に敬愛をもち、あなた方のために働き、さらにあなた方を通じて他の人々へ援助の手を差しのべたいと願っているスピリット、それだけを唯一の願いとしているスピリットであることは十分に証明済みのはずです」
さて、支配霊は優れた霊媒をもつ交霊会を何年催していても、常に新しい体験をさせられるものである。その一端を見せたのが、霊媒に憑っている間は物が見えてないのか、耳は聞こえてないのかという質問が出された時だった。
そんな質問が出たのは、ある日の交霊会の進行中にスワッハーが遅れて入って来て、列席者の一人がスワッハーのために席を移動したことにシルバーバーチが気がつかなかったからである。
その質問に対してシルバーバーチはこう答えた。
「幾分そういう傾向があります。それは私が霊媒の器官をどの程度までコントロールし、一方、霊界との連絡網が何本使用できるかに掛かっています。
全部が使える時、つまり一、二本で四苦八苦するような状態でなければ、コントロールが完全ですから、その間は私は霊媒になり切っており、霊媒の体験することはみな私も体験します。
ですが連絡網が制限され、わずかに残ったもので何とか交霊を維持しなければならない時は、必然的に霊媒との接触の仕方が弱くなり、必要最少限の中枢網しか使っていませんから、その分だけふだんよりはコントロールできていないことになります」
「となりますと、交霊会の始まる前に霊媒がどこの席に誰が座っているということを知っていても、入神した霊媒を完全にコントロール出来ない時は、あなたには誰がどこにいるということは判らないということになりませんか」
「細かく説明しましょう。何であれ物事の事情というものは、うまく説明できると面白いものです。私があなた方に話をしていると〝回線良好〟との信号が出ます。そこでこの回線に繋ぐと情報が入ります。その情報を私が皆さんに伝えるわけです。
その操作にはかなりの集中力を要しますが、それは、重大なことほど余分に注意力が要ることを意味しています。
さて、あの時スワッハーが入ってきたので私は〝ああ、スワッハーですね〟と言いましたが、どこに座るかは注意していませんでした。
それで、誰かが私のすぐ近くに来る音がした時てっきりスワッハーだと思い、その方向を向いて〝ようこそ〟と言ったわけです」
ここでその席に移った本人が〝そうでしたね〟と相づちを打つと、シルバーバーチはさらにこう続けた。
「するとあなた(相づちを打った人)が挨拶をされたその声で、あなたがスワッハーに席を譲られたことを知ったわけです。聞く能力は完全でしたが、見る能力はあの時は十分ではありませんでした。
それで私は音のする方向を向いて〝ようこそ〟とは言いましたが、せっかくの良好な回線を乱したくないので、それ以上は言葉を交わさなかったわけです。これで謎は解けたと思いますが・・・・」
「もし誰かがこっそりと部屋を出て行ったら分かりますか」
「それはいつ出るかによります。今でしたら分かります。集中力を要する回線に合わせている時、中枢網だけでやっと霊媒との関係を維持している時は、他のことには構っておれません。
私はその時その時の大事なこと、基本的なことに目を向けておりますので・・・」
「誰かが途中で入って来たら交霊の状態が乱れますか」
「常連(レギュラー)であればそういうことはありません。ふだんからその人のオーラを通じて霊力を供給してきており、その融合が交霊に必要なエネルギーとなっているからです。
初めての人がいきなり入って来ると話は別です。まったく新しい要素ですから。
出席者が常連であれば、入神状態に関するかぎり、明りがついていようが消えていようが、皆さんが脚を組まれてようが開かれようが、関係ありません。
霊的エネルギーがコントロールされ安定しているからです。が、初めての人ばかりの集まりだとすると、入神談話のための条件を改めて整える必要が生じるでしょう」
シルバーバーチ
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