The Life Beyond the Veil Vol. II The Highlands of Heaven by G. V. Owen
六章 常夏の楽園
4 九界からの新参(しんざん)を迎える
一九一三年十二月十五日 月曜日
さて私は、いずれの日か召されるその日までに成就せねばならない仕事への情熱に燃えつつ、その界をあとにしたのであったが、ああ、その環境ならびに守護霊から発せられた、あの言うに言われぬ美しさと長閑(のど)けさ。仮にそこの住民がその守護霊の半分の美しさ、半分の麗しさしかないとしても、それでもなお、いかに祝福された住民であることか。私は今その界へ向けて鋭意邁進しているところである。
しかし一方には貴殿を手引きすべき責務がある。もとよりそれを疎かにはしないつもりであるが、決して焦ることもしない。大いなる飛躍もあるであろうが、無為にうち過ごさざるを得ない時もあるであろう。
しかし私が曽て辿った道へ貴殿を、そして貴殿を通じて他の同胞を誘う上で少しでも足しになればと思うのである。願わくは貴殿の方から手を差しのべてもらいたい。私に為し得る限りのことをするつもりである。
私は心躍る思いの内にその場を去った。そしてそれ以来、私を取り巻く事情についての理解が一段と深まった。それは私が重大な事柄について一段と高い視野から眺めることが出来るようになったということであり、今でもとくに理解に苦しむ複雑な事態に立ち至った折には、その高い視野から眺めるよう心掛けている。
つまりそれは第十一界に近い視野から眺めることであり、事態はたちどころに整然と片づけられ、因果関係が一層鮮明に理解できる。
貴殿も私に倣(なら)うがよい。人生の縺(もつ)れがさほど大きく思えなくなり、基本的原理の働きを認識し、神の愛をより鮮明に自覚することであろう。そこで私は、今置かれている界について今少し叙述を続けてみようと思う。
帰りの下り道で例の川のところで右へ折れ、森に沿って曲がりくねった道を辿り、右手に聳える山々も眺めつつ平野を横切った。その間ずっと冥想を続けた。
そのうち、その位置からさらに先の領域に住む住民の一団に出会った。まずその一団の様子から説明しよう。彼らのある者は歩き、ある者は馬に跨(またが)り、ある者は四輪馬車ないしは二輪馬車に乗っている。
馬車には天蓋(てんがい)はなく木製で、留め具も縁飾りも全て黄金で出来ており、さらにその前面には乗り手の霊格と所属界を示す意匠が施されている。
身にまとえる衣装はさまざまな色彩をしている。が、全体を支配しているのは藤色で、もう少し濃さを増せば紫となる。総勢三百名もいたであろうか。挨拶を交わしたあと私は何用でいずこへ向かわれるのかと尋ねた。
その中の一人が列から離れて語ってくれたところによれば、下の九界からかなりの数の一団がいよいよこの十界への資格を得て彼らの都市へ向かったとの連絡があり、それを迎えに赴くところであるという。
それを聞いて私はその者に、是非お供させていただいて出迎えの様子を拝見したく思うので、リーダーの方にその旨を伝えてほしいと頼んだ。
するとその者はにっこりと笑顔を見せ、「どうぞ付いて来なさるがよろしい。私がそれを保証しましょう。と申すのも、あなたは今そのリーダーと並んで歩いておられる」と言う。
その言葉に私はハッとして改めてその方へ目をやった。実は、その方も他の者と同じく紫のチュニックに身を包んでおられたが何の飾りつけもなく、頭部の環帯も紫ではあるが宝石が一つ付いているのみで、他に何の飾りも見当たらなかったのである。
他の者たちが遥かに豪華に着飾り、そのリーダーよりも目立ち、威厳さえ感じられた。
その方と多くは語らなかったが、次第に私よりも霊格の高いお方で私の心の中を読み取っておられることが判って来た。
その方は更にこうおっしゃった。「新参の者には私のこのままの姿をお見せしようと思います。と申すのは、彼らの中にはあまり強烈な光輝には耐えられぬ者がいると聞いております。そこで私が質素にしておれば彼らが目を眩ませることもないでしょう。
あなたはつい最近、身に余る光栄は益よりも害をもたらすものであることを体験されたばかりではなかったでしょうか。」
その通りであることを申し上げると、さらにこう言われた。「お判りの通り私はあなたの守護霊が属しておられる界の者です。今はこの界での仕事を仰せつかり、こうして留まっているまでです。
そこで、これより訪れる新参者が〝拝謁〟の真の栄光に耐えうるようになるまでは気楽さを味わってもらおうとの配慮から、このような出で立ちになったわけです。さ、急ぎましょう。皆の者が川に到着しないうちに追い付きましょう。」
一団にはわけなく追いつき、一緒に川を渡った。泳いで渡ったのである。人間も、馬車も、ワゴンもである。そして向う岸に辿り着いた。そこから私の住む都市を右手に見ながら、山あいの峠道にきた。そこの景色がこれ又一段と雄大であった。
左右に堂々たる岩がさながら大小の塔、尖塔、ドームの如く聳え立っている。そこここに植物が生い繁り、やがて二つの丘を両肩にして、そのあいだに遠く大地が広がっているのが見えて来た。そこにも一つの都市があり、そこに住む愉快な人々の群れが吾々の方を見下ろし、手を振って挨拶し、愛のしるしの花を投げてくれた。
そこを通り過ぎると左右に広がる盆地に出た。実に美しい。周りに樹木が生い茂った華麗な豪邸もあれば、木材と石材でできた小じんまりとした家屋もある。湖もあり、そこから流れる滝が、吾々がたった今麓を通って来た山々から流れてくる川へ落ちて行く。
そこで盆地が終わり、自然の岩で出来た二本の巨大な門柱の間を一本の道が川と並んで通っている。
その土地の人々が〝海の門〟と呼ぶこの門を通り抜けると、眼前に広々とした海が開ける。川がそのまま山腹を落ちてゆくさまは、あたかも色とりどりの無数のカワセミやハチドリが山腹を飛び交うのにも似て、様々な色彩と光輝を放ちつつ海へ落ちてゆく。吾々も道を通って下り、岸辺に立った。
一部の者は新参者の到着を見届けるために高台に残った。こうしたことは全て予定通りに運ばれた。
それと言うのも、リーダーはその界より一段上の霊力を身に付けておられ、それだけこの界の霊力を容易に操ることが出来るのである。そういう次第で、吾々が岸辺に下り立って程なくして、高台に残った者から、沖に一団の影が見えるとの報が大声で届けられた。その時である。
川を隔てた海岸づたいに近づいて来る別の女性の一団が見えた。尋ねてみるとその土地に住む人たちで、これから訪れる人々と合流することになっているとのことであった。
迎えた吾々も、迎えられた女性たちも、ともに喜びにあふれていた。
丸みを帯びた丘の頂上にその一団の長(おさ)が立っておられる。頭部より足まですっぽりと薄い布で包み、それを通してダイヤモンドか真珠のような生命力あふれる輝きを放散している。その方もじっと沖へ目をやっておられたが、やがて両手で物を編むような仕草を始めた。
間もなくその両手の間に大きな花束が姿を現わした。そこで手の動きを変えると今度はその花束が宙に浮き、一つなぎの花となって空高く伸び、さらに遠く沖へ伸びて、ついに新参の一団の頭上まで届いた。
それが今度は一点に集まって渦巻きの形を作り、ぐるぐると回転しながらゆっくりと一団の上に下りて行き、最後にぱっと散らばってバラ、ユリ、その他のさまざまな花の雨となって一団の頭上や身辺に落下した。
私はその様子をずっと見ていたが、新参の一団は初め何が起きるのであろうかという表情で見ていたのが、最後は大喜びの表情へと変わるのが判った。その花の意味が理解できたからである。すなわち、はるばると旅して辿り着いたその界では愛と善とが自分たちを待ち受けていることを理解したのであった。
さて、彼らが乗って来た船の様子もその時点ではっきりして来た。実はそれはおよそ船とは呼べないもので筏のようなものに過ぎなかった。どう説明すればよかろうか。
確かに筏なのであるが、何の変哲もないただの筏でもない。寝椅子もあれば柔らかいベッドも置いてあり、楽器まで置いてある。その中で一番大きいものはオルガンである。
それを今三人の者が一斉に演奏しはじめた。その他にも楽しむためのものがいろいろと置いてある。その中で特に私の注意を引いたのは、縁(へり)の方にしつらえた
祭壇であった。詳しい説明はできない。それが何のために置いてあるのかが判らないからである。
さてオルガンの演奏とともに船上の者が一斉に神を讃美する歌を唄い始めた。すべての者が跪づく神、生命の唯一の源である神。太陽はその生命を地上へ照らし給う。天界は太陽の奥の間──愛と光と温もりの泉なり。太陽神とその配下の神々に対し、吾々は聖なる心と忠誠心を捧げたてまつる。そう唱うのである。
私の耳にはその讃美歌が妙な響きをもっているように思えた。そこで私はその答えはもしかしたら例の祭壇にあるかも知れないと思ってそこへ目をやってみた。が、手掛かりとなるものは何も見当たらなかった。私になるほどと得心がいったのは、すっと後のことであった。
が、貴殿は今宵はもう力が尽きかけている。ここで一応打ち切り、あす又この続きを述べるとしよう。今夜も神の祝福を。では、失礼する。昼となく夜となく、ザブディエルは貴殿と共にあると思うがよい。
そのことを念頭に置けば、さまざまな思念や思いつきがいずこより来るか、得心がゆくことであろう。ではこれまでである。汝は疲れてきた。 ザブディエル ♰
さて私は、いずれの日か召されるその日までに成就せねばならない仕事への情熱に燃えつつ、その界をあとにしたのであったが、ああ、その環境ならびに守護霊から発せられた、あの言うに言われぬ美しさと長閑(のど)けさ。仮にそこの住民がその守護霊の半分の美しさ、半分の麗しさしかないとしても、それでもなお、いかに祝福された住民であることか。私は今その界へ向けて鋭意邁進しているところである。
しかし一方には貴殿を手引きすべき責務がある。もとよりそれを疎かにはしないつもりであるが、決して焦ることもしない。大いなる飛躍もあるであろうが、無為にうち過ごさざるを得ない時もあるであろう。
しかし私が曽て辿った道へ貴殿を、そして貴殿を通じて他の同胞を誘う上で少しでも足しになればと思うのである。願わくは貴殿の方から手を差しのべてもらいたい。私に為し得る限りのことをするつもりである。
私は心躍る思いの内にその場を去った。そしてそれ以来、私を取り巻く事情についての理解が一段と深まった。それは私が重大な事柄について一段と高い視野から眺めることが出来るようになったということであり、今でもとくに理解に苦しむ複雑な事態に立ち至った折には、その高い視野から眺めるよう心掛けている。
つまりそれは第十一界に近い視野から眺めることであり、事態はたちどころに整然と片づけられ、因果関係が一層鮮明に理解できる。
貴殿も私に倣(なら)うがよい。人生の縺(もつ)れがさほど大きく思えなくなり、基本的原理の働きを認識し、神の愛をより鮮明に自覚することであろう。そこで私は、今置かれている界について今少し叙述を続けてみようと思う。
帰りの下り道で例の川のところで右へ折れ、森に沿って曲がりくねった道を辿り、右手に聳える山々も眺めつつ平野を横切った。その間ずっと冥想を続けた。
そのうち、その位置からさらに先の領域に住む住民の一団に出会った。まずその一団の様子から説明しよう。彼らのある者は歩き、ある者は馬に跨(またが)り、ある者は四輪馬車ないしは二輪馬車に乗っている。
馬車には天蓋(てんがい)はなく木製で、留め具も縁飾りも全て黄金で出来ており、さらにその前面には乗り手の霊格と所属界を示す意匠が施されている。
身にまとえる衣装はさまざまな色彩をしている。が、全体を支配しているのは藤色で、もう少し濃さを増せば紫となる。総勢三百名もいたであろうか。挨拶を交わしたあと私は何用でいずこへ向かわれるのかと尋ねた。
その中の一人が列から離れて語ってくれたところによれば、下の九界からかなりの数の一団がいよいよこの十界への資格を得て彼らの都市へ向かったとの連絡があり、それを迎えに赴くところであるという。
それを聞いて私はその者に、是非お供させていただいて出迎えの様子を拝見したく思うので、リーダーの方にその旨を伝えてほしいと頼んだ。
するとその者はにっこりと笑顔を見せ、「どうぞ付いて来なさるがよろしい。私がそれを保証しましょう。と申すのも、あなたは今そのリーダーと並んで歩いておられる」と言う。
その言葉に私はハッとして改めてその方へ目をやった。実は、その方も他の者と同じく紫のチュニックに身を包んでおられたが何の飾りつけもなく、頭部の環帯も紫ではあるが宝石が一つ付いているのみで、他に何の飾りも見当たらなかったのである。
他の者たちが遥かに豪華に着飾り、そのリーダーよりも目立ち、威厳さえ感じられた。
その方と多くは語らなかったが、次第に私よりも霊格の高いお方で私の心の中を読み取っておられることが判って来た。
その方は更にこうおっしゃった。「新参の者には私のこのままの姿をお見せしようと思います。と申すのは、彼らの中にはあまり強烈な光輝には耐えられぬ者がいると聞いております。そこで私が質素にしておれば彼らが目を眩ませることもないでしょう。
あなたはつい最近、身に余る光栄は益よりも害をもたらすものであることを体験されたばかりではなかったでしょうか。」
その通りであることを申し上げると、さらにこう言われた。「お判りの通り私はあなたの守護霊が属しておられる界の者です。今はこの界での仕事を仰せつかり、こうして留まっているまでです。
そこで、これより訪れる新参者が〝拝謁〟の真の栄光に耐えうるようになるまでは気楽さを味わってもらおうとの配慮から、このような出で立ちになったわけです。さ、急ぎましょう。皆の者が川に到着しないうちに追い付きましょう。」
一団にはわけなく追いつき、一緒に川を渡った。泳いで渡ったのである。人間も、馬車も、ワゴンもである。そして向う岸に辿り着いた。そこから私の住む都市を右手に見ながら、山あいの峠道にきた。そこの景色がこれ又一段と雄大であった。
左右に堂々たる岩がさながら大小の塔、尖塔、ドームの如く聳え立っている。そこここに植物が生い繁り、やがて二つの丘を両肩にして、そのあいだに遠く大地が広がっているのが見えて来た。そこにも一つの都市があり、そこに住む愉快な人々の群れが吾々の方を見下ろし、手を振って挨拶し、愛のしるしの花を投げてくれた。
そこを通り過ぎると左右に広がる盆地に出た。実に美しい。周りに樹木が生い茂った華麗な豪邸もあれば、木材と石材でできた小じんまりとした家屋もある。湖もあり、そこから流れる滝が、吾々がたった今麓を通って来た山々から流れてくる川へ落ちて行く。
そこで盆地が終わり、自然の岩で出来た二本の巨大な門柱の間を一本の道が川と並んで通っている。
その土地の人々が〝海の門〟と呼ぶこの門を通り抜けると、眼前に広々とした海が開ける。川がそのまま山腹を落ちてゆくさまは、あたかも色とりどりの無数のカワセミやハチドリが山腹を飛び交うのにも似て、様々な色彩と光輝を放ちつつ海へ落ちてゆく。吾々も道を通って下り、岸辺に立った。
一部の者は新参者の到着を見届けるために高台に残った。こうしたことは全て予定通りに運ばれた。
それと言うのも、リーダーはその界より一段上の霊力を身に付けておられ、それだけこの界の霊力を容易に操ることが出来るのである。そういう次第で、吾々が岸辺に下り立って程なくして、高台に残った者から、沖に一団の影が見えるとの報が大声で届けられた。その時である。
川を隔てた海岸づたいに近づいて来る別の女性の一団が見えた。尋ねてみるとその土地に住む人たちで、これから訪れる人々と合流することになっているとのことであった。
迎えた吾々も、迎えられた女性たちも、ともに喜びにあふれていた。
丸みを帯びた丘の頂上にその一団の長(おさ)が立っておられる。頭部より足まですっぽりと薄い布で包み、それを通してダイヤモンドか真珠のような生命力あふれる輝きを放散している。その方もじっと沖へ目をやっておられたが、やがて両手で物を編むような仕草を始めた。
間もなくその両手の間に大きな花束が姿を現わした。そこで手の動きを変えると今度はその花束が宙に浮き、一つなぎの花となって空高く伸び、さらに遠く沖へ伸びて、ついに新参の一団の頭上まで届いた。
それが今度は一点に集まって渦巻きの形を作り、ぐるぐると回転しながらゆっくりと一団の上に下りて行き、最後にぱっと散らばってバラ、ユリ、その他のさまざまな花の雨となって一団の頭上や身辺に落下した。
私はその様子をずっと見ていたが、新参の一団は初め何が起きるのであろうかという表情で見ていたのが、最後は大喜びの表情へと変わるのが判った。その花の意味が理解できたからである。すなわち、はるばると旅して辿り着いたその界では愛と善とが自分たちを待ち受けていることを理解したのであった。
さて、彼らが乗って来た船の様子もその時点ではっきりして来た。実はそれはおよそ船とは呼べないもので筏のようなものに過ぎなかった。どう説明すればよかろうか。
確かに筏なのであるが、何の変哲もないただの筏でもない。寝椅子もあれば柔らかいベッドも置いてあり、楽器まで置いてある。その中で一番大きいものはオルガンである。
それを今三人の者が一斉に演奏しはじめた。その他にも楽しむためのものがいろいろと置いてある。その中で特に私の注意を引いたのは、縁(へり)の方にしつらえた
さてオルガンの演奏とともに船上の者が一斉に神を讃美する歌を唄い始めた。すべての者が跪づく神、生命の唯一の源である神。太陽はその生命を地上へ照らし給う。天界は太陽の奥の間──愛と光と温もりの泉なり。太陽神とその配下の神々に対し、吾々は聖なる心と忠誠心を捧げたてまつる。そう唱うのである。
私の耳にはその讃美歌が妙な響きをもっているように思えた。そこで私はその答えはもしかしたら例の祭壇にあるかも知れないと思ってそこへ目をやってみた。が、手掛かりとなるものは何も見当たらなかった。私になるほどと得心がいったのは、すっと後のことであった。
が、貴殿は今宵はもう力が尽きかけている。ここで一応打ち切り、あす又この続きを述べるとしよう。今夜も神の祝福を。では、失礼する。昼となく夜となく、ザブディエルは貴殿と共にあると思うがよい。
そのことを念頭に置けば、さまざまな思念や思いつきがいずこより来るか、得心がゆくことであろう。ではこれまでである。汝は疲れてきた。 ザブディエル ♰